映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

2022-01-01から1年間の記事一覧

映画「SWAN SONG スワンソング」 やはりどう考えてもクソジジイが正しい

”愚かな”クソジジイの映画だ。あやうく”まっとう”に生きようとして、私はとても焦るときがある。しかし、この老人ホームから抜け出してきた元ヘアドレッサーのジジイは、もう早晩死ぬというのに、なお生きているのが恥ずかしいほど愚かな行為を連発する。愚…

映画「キングメーカー大統領を作った男」 血塗られない政治劇

金大中と選挙参謀の映画と聞いて、これから血塗られた現代史を自分は観るのだと想像していた。しかし、本作は実にスマートな映画だった。監督自身が言っている。「野暮ったくない洗練された選挙戦の話を描いてみたかった」金大中と言えば、日本で拉致された…

映画「灼熱の魂」 大いに沈痛なれ

昨日の「NOPE」に続いて心を射貫かれたような衝撃を受ける。内容にふれられないほどの映画に遭う。おい、映画館よ。殺す気か。鑑賞後に誰かと語らいたくなる映画はあまたあるが、本作は沈黙を強いられる。あまりのことに口がきけないというか、なんというか…

映画「NOPE/ノープ」 想像力と創造力にクラクラする

親愛なる映画好きの皆さんのことを思うと今回ばかりは内容については言及しないでおきたい。自分がそうでしたが、まったく何も知らずにご覧になるのが最高です。 クラクラしますよ。そして、ご覧になった方と感想を交わしたいのです!!いや正直にゲロします…

映画「サバカン」 ここでお別れしたくない、またねって言いたい映画

主人公少年を助ける由香(茅島みずき)というおねえさんが登場する。脇を固めるひとりで出番は多くなく、素性の説明もない。彼女が海辺で、朝鮮半島から流れてきたであろうサイダー缶を拾いあげ、韓国に行ったことはないと小さく呟く。そして海の向こうをキ…

小説「慟哭 小説・林郁夫裁判」 そして映画「すばらしき世界」

オウム事件を追った「慟哭 小説・林郁夫裁判」を読みながら、こういう事件はきっとまた起こるだろうと確信に近い感覚に襲われた。それは自分自身がある部分でこの事件を起こした人たちを「わかる」と思うからであり、この事件を起こした人たちがちっとも異常…

映画「アトランティス」 戦争には体温がない

戦争とは何か。外交手段のひとつ課題解決のための止む無き手段有史以来繰り返されてきた人間の本能祖国ウクライナを守るための戦争。そのあとに残ったものは、溶鉱炉に身を投げる元兵士、地雷で荒廃した大地、無数の死体袋。この作品は長回しで撮られ、硬質…

映画「恋恋風塵」 「ない」というドラマが唸りをあげて起きている

クラスや会社に必ずいる。地味で無口ではあるが、賢くて誠実な人物。余計なことはペラペラしゃべらないし、調子にのって踊らないし、オレがオレがとわめかない。しかし本質を生きているような人物。もちろん一目置かれる。長くみんなの記憶にも残る。「恋恋…

映画「この世界の片隅に」 狂気の世界は少女の”まっとう”ひとつ奪えなかった

主人公すずの生々しい”業”と”怒り”が作品に通奏低音として流れ続ける。一見素朴を装っている作品だが、人間の生理から目をそらしていないし、世界や戦争の愚かさをギミック総動員して暴いている。激しい作品だと思う。それは片渕監督の青い炎のような激しさ…

映画「ぜんぶ、ボクのせい」 スクリーンに映るものは嘘のはずなのに

鑑賞後の映画館ロビー。そこに貼られていた出演者の公式コメント。子どもを棄てる母親を演じた松本まりか氏のそれを読んで危うく嗚咽しそうになった。「口ではごめんねと言いながら身体は子供を拒絶する――― まだ柔らかいその身体を押し返したあの手の感触は…

映画「プアン 友だちと呼ばせて」 自分の恥部を意識する

嫌いな映画は、オレの妬みと恥部を意識させる映画だ。多くの人はこの粋で洒落た映画を楽しく鑑賞しているだろうに、なんだって自分はジリジリと嫌な気持ちで鑑賞するんだろう。まったく自分を呪いたくなる。ボスのようなNYでシェイカー振ってるテストステロ…

映画「きっと地上には満天の星」 女はトイレで悲しみを流すのか

女の子がサラダをぶちまけた。マクドナルドでシャカシャカするやつ。胡麻ドレ臭く派手にレタスが散乱した。ママは怒らず、その子の顔とテーブルと床を拭った。ママはすごいな。君たちの関係ってすごいな。そう思ったのが先日のこと。 littles-wings.com 母性…

映画「アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台」 結末は唖然、でもベケットが爆笑してるんだからいいのか

本作ふくめフランス映画を見ると「フランス人」の多様さに目を奪われる。肌の色、出身地、価値観、クセ、移民難民…これぞ「フランス人」というタイプがない。ごった煮な人たちがフランス国を構成している。当然ごった煮なフランス人たちはワイワイガヤガヤと…

映画「百年と希望」 共産党…どう考えてもまともなことを言っているのに議席を取れないこの国

政治やりたいな。やりたいかな。と、一瞬でもそう思わせたならいい映画ってことですよね。日本の政治って例の学生運動以後たいていの国民は真剣になったことがないと思うんですよ。ひたすら経済や生活に目を向けて国のデザインや民主化を政治屋に任せてしま…

映画『ひまわり 50周年HDレストア版』 毒々しくひまわりが咲き誇る反戦映画であってほしくない

『ひまわり』は1970年のドラマ映画 若く陽気なバカップルだったアントニオとジョバンナは引き裂かれやがてふたりは白髪と皴の中年になった。本当に愛する人とは結ばれない。誰でもそうなのではないか。だからみなこの映画に涙する。いや、結ばれないからこそ…

映画「ボイリング・ポイント / 沸点」 アンディ、少しそこで倒れてなよ

90分間、驚異のワンショット ここに集う人物たちはあまりに忙しく哀れ昏倒するほど悩んでいる。本作はそんな現代の実情を見事に描いているがオレは、オレは、そんなことよりワンショットのことが気になって仕方ない!!「まじカメラマンすげー」「画角外の役…

映画「戦争と女の顔」 だったらこっちだって生きていく

■福岡KBCシネマの「鑑賞記」 ■オレの中の憎悪 ■戦争はなくならないという前提で ■それならオナニーする ■絶望の先進国 ■カンテミール・バラーゴフありがとう ■福岡KBCシネマの「鑑賞記」 福岡KBCシネマは体温を感じるミニシアターだ。いつもスタッフの声が聴…

映画「ナワリヌイ プーチンが最も恐れた男」 尊敬しすぎて、白けて、嫉妬して、このままでは敵視する

transformer.co.jp 妻・ユリアが画面に登場すると複雑な気持ちになってきた。 「なんだこいつら」 まるで”映画のごとき”美男美女の勇敢で正義の物語に卑小な自分が疼き出した。 ナワリヌイが政府の陰謀で瀕死となったとき、半ば監禁された病院に駆け付け「ア…

映画「恋愛の抜けたロマンス」 映画だって軽くて薄いほど価値がある

klockworx-asia.com かるくてうっすい作品である。『恋愛はしたくないけどぉ、さびしいからぁ、セックスはしたいんでぇ、デートアプリによってぇ、はじまるふたりの関係(^_-)-☆』ナノ!!かっるい!!かるすぎる!ナノかるぅぅぅぅぅい!というわけで鑑賞中…

映画「三姉妹」 絶望を経験した人の明日への眼差し

こんにちはノブです。 今日は全国で順次公開されている「三姉妹」です。 女優賞を席巻しているのも納得の面白さです。 いってみましょう! www.zaziefilms.com 客席から三姉妹たちを傍観しているつもりでいたら、終盤怒涛のように彼女たちの生活史に巻き込ま…

映画「エルヴィス」 君が40でボクが50になったらもう一度やり直そう

バズ・ラーマン監督の絢爛豪華で目まぐるしい映像は、エルヴィスがキング・オブ・ロックへ駆けあがるゴージャスさを描くのにとても似合っていた。 絶頂は、ラスヴェガスでの初日のステージだ。 熱狂に包まれて幕の降りたステージ。 エルヴィスは、ステージ中…

映画「わたしは最悪。」 倫理よりも先に傷ついてみたい。

こんにちはノブです。 今日はカンヌで女優賞を獲得している「わたしは最悪。」です。 「THE WORST PERSON IN THE WORLD」 なかなかのタイトルですね。 ではいってみましょう! gaga.ne.jp 愛くるしい主人公ユリアの”ジョロジョロ、ブッ”にオレは完敗しました…

映画「モガディシュ 脱出までの14日間」 私の中の”意識高い”を奪う映画

こんにちはノブです。 今日は7月1日公開の韓国映画「モガディシュ」です。 1990年ソマリア内戦における韓国&北朝鮮の大使館員を描いた作品。 今日も映画評っぽくないですね。 気軽にお読みください! mogadishu-movie.com 実話ベース。1990年のソマリア内戦…

映画「リコリス・ピザ」 身も蓋もない自分をさらすため、全力であなたのもとへ走っていく

こんにちはノブです。 今日はポール・トーマス・アンダーソン最新作「リコリス・ピザ」です。 アカデミー賞でも3部門ノミネーションでしたね。 今日のは映画評でも何でもないのでどうぞ気楽にお読みください。 www.licorice-pizza.jp アラナはドンドンドンド…

映画「PLAN75」 人間を人間たらしめているのは、共有ロッカーをていねいに拭けるということ

こんにちはノブです。 今日取り上げるのは早川千絵監督の長編第一作「PLAN75」です。 いってみましょう! happinet-phantom.com この映画には、我々観客が河合優実に真正面から見つめられる瞬間があります。 あの眼差しは誰のものなのか。 河合優美本人の目…

映画「ベイビー・ブローカー」 未来の話をしましょう

こんにちはノブです。 今日は是枝裕和監督最新作「ベイビー・ブローカー」です。 いってみましょう。 ■未来の話をしましょう ■ぺ・ドゥナに託したもの ■吉野弘の詩「命は」 ■「生まれてきてくれてありがとう」を言葉だけにしない ■未来の話をしましょう 是枝…

映画「神は見返りを求める」 恩讐の彼方の敗れざる者たち

こんにちはノブです。 今日は面白映画製造マシーンである吉田恵輔監督の最新作「神は見返りを求める」です。 ムロツヨシさん、岸井ゆきのさんもいいですよー! ではいきましょう。 主人公・イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンでYouTuber・…

映画「わたし達はおとな」 自分のためのパンを焼いた祝福

こんにちはノブです。 今日は、加藤拓也監督の「わたし達はおとな」です。 鑑賞から4日経っても私の心の沸騰が全然おさまりません。 ではいきましょう! ■不気味な新人監督の登場 ■優実の側に立つ ■母の死を周囲に話さない ■長い長いラストショット notheroi…

映画「峠 最後のサムライ」 私、いい加減です

こんにちはノブです。 今日は6月17日公開の「峠 最後のサムライ」です。 いってみましょう! ■待望の小泉監督最新作 ■変幻自在の小泉演出 ■いまそこにある"内戦" ■観客はいい加減である 累計発行部数398万部超の大ベストセラーとして今なお読まれ続けている…

映画「恋は光」 空間芸術としての西野七瀬

こんにちはノブです。 今日は6月17日公開の「恋は光」です。 いってみましょう! ■SNSでの「西野七瀬優勝」 ■映画とは何か ■空間芸術としての西野七瀬 ■西野七瀬を越えたとしても(ジェットストリームアタック手法) happinet-phantom.com 「恋」をしている…