映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

映画「キングメーカー大統領を作った男」 血塗られない政治劇

金大中と選挙参謀の映画と聞いて、これから血塗られた現代史を自分は観るのだと想像していた。しかし、本作は実にスマートな映画だった。監督自身が言っている。「野暮ったくない洗練された選挙戦の話を描いてみたかった」金大中と言えば、日本で拉致された…

映画「灼熱の魂」 大いに沈痛なれ

昨日の「NOPE」に続いて心を射貫かれたような衝撃を受ける。内容にふれられないほどの映画に遭う。おい、映画館よ。殺す気か。鑑賞後に誰かと語らいたくなる映画はあまたあるが、本作は沈黙を強いられる。あまりのことに口がきけないというか、なんというか…

映画「NOPE/ノープ」 想像力と創造力にクラクラする

親愛なる映画好きの皆さんのことを思うと今回ばかりは内容については言及しないでおきたい。自分がそうでしたが、まったく何も知らずにご覧になるのが最高です。 クラクラしますよ。そして、ご覧になった方と感想を交わしたいのです!!いや正直にゲロします…

映画「サバカン」 ここでお別れしたくない、またねって言いたい映画

主人公少年を助ける由香(茅島みずき)というおねえさんが登場する。脇を固めるひとりで出番は多くなく、素性の説明もない。彼女が海辺で、朝鮮半島から流れてきたであろうサイダー缶を拾いあげ、韓国に行ったことはないと小さく呟く。そして海の向こうをキ…

小説「慟哭 小説・林郁夫裁判」 そして映画「すばらしき世界」

オウム事件を追った「慟哭 小説・林郁夫裁判」を読みながら、こういう事件はきっとまた起こるだろうと確信に近い感覚に襲われた。それは自分自身がある部分でこの事件を起こした人たちを「わかる」と思うからであり、この事件を起こした人たちがちっとも異常…

映画「アトランティス」 戦争には体温がない

戦争とは何か。外交手段のひとつ課題解決のための止む無き手段有史以来繰り返されてきた人間の本能祖国ウクライナを守るための戦争。そのあとに残ったものは、溶鉱炉に身を投げる元兵士、地雷で荒廃した大地、無数の死体袋。この作品は長回しで撮られ、硬質…

映画「恋恋風塵」 「ない」というドラマが唸りをあげて起きている

クラスや会社に必ずいる。地味で無口ではあるが、賢くて誠実な人物。余計なことはペラペラしゃべらないし、調子にのって踊らないし、オレがオレがとわめかない。しかし本質を生きているような人物。もちろん一目置かれる。長くみんなの記憶にも残る。「恋恋…

映画「この世界の片隅に」 狂気の世界は少女の”まっとう”ひとつ奪えなかった

主人公すずの生々しい”業”と”怒り”が作品に通奏低音として流れ続ける。一見素朴を装っている作品だが、人間の生理から目をそらしていないし、世界や戦争の愚かさをギミック総動員して暴いている。激しい作品だと思う。それは片渕監督の青い炎のような激しさ…

映画「ぜんぶ、ボクのせい」 スクリーンに映るものは嘘のはずなのに

鑑賞後の映画館ロビー。そこに貼られていた出演者の公式コメント。子どもを棄てる母親を演じた松本まりか氏のそれを読んで危うく嗚咽しそうになった。「口ではごめんねと言いながら身体は子供を拒絶する――― まだ柔らかいその身体を押し返したあの手の感触は…

映画「プアン 友だちと呼ばせて」 自分の恥部を意識する

嫌いな映画は、オレの妬みと恥部を意識させる映画だ。多くの人はこの粋で洒落た映画を楽しく鑑賞しているだろうに、なんだって自分はジリジリと嫌な気持ちで鑑賞するんだろう。まったく自分を呪いたくなる。ボスのようなNYでシェイカー振ってるテストステロ…

映画「きっと地上には満天の星」 女はトイレで悲しみを流すのか

女の子がサラダをぶちまけた。マクドナルドでシャカシャカするやつ。胡麻ドレ臭く派手にレタスが散乱した。ママは怒らず、その子の顔とテーブルと床を拭った。ママはすごいな。君たちの関係ってすごいな。そう思ったのが先日のこと。 littles-wings.com 母性…

映画「アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台」 結末は唖然、でもベケットが爆笑してるんだからいいのか

本作ふくめフランス映画を見ると「フランス人」の多様さに目を奪われる。肌の色、出身地、価値観、クセ、移民難民…これぞ「フランス人」というタイプがない。ごった煮な人たちがフランス国を構成している。当然ごった煮なフランス人たちはワイワイガヤガヤと…