映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

映画「あつい胸さわぎ」 胸を張って大丈夫

□「あつい胸さわぎ」(2023年1月公開) 監督・まつむらしんご、脚本は「凶悪」「朝が来る」の高橋泉。オリジナルは2019年発表の同名舞台。昭子役の枝元萌氏は読売演劇大賞優秀女優賞。”若年性乳がん”をテーマとしているがいわゆる闘病ものではなく病気の人間…

映画「そして僕は途方に暮れる」 こちらを見ていたのだ

□「そして僕は途方に暮れる」(2023年1月公開) 監督・脚本は「何者」「娼年」などの三浦大輔。劇団ポツドールの主宰。”演劇的なもの"を徹底的に排したリアリズムと、性欲などを直視した過激なテーマで2000年代から演劇界に揺さぶりをかけてきた。演劇に映画…

映画「ヘアー」(午前十時の映画祭) そして髪を切った

午前10時の映画祭にて再上映(町山智浩氏の解説あり)「ヘアー」 1979年 監督:ミロス・フォアマン「カッコーの巣の上で」や「アマデウス」のミロス・フォアマンは、チェコスロヴァキア出身でアメリカに移住した映画監督。本作は1968年上演のブロードウェイ…

映画「とべない風船」 引き波と三浦透子を見ていたい

□「とべない風船」(2023年1月公開) 監督・脚本は広島を拠点にCMディレクターなどを手がける宮川博至。「平成30年7月豪雨」をテーマにしたオール広島ロケの作品。地方発で大手資本が入っておらず独立系プロダクション製作での全国公開。出演は東出昌大、三…

ドラマ「舞妓さんちのまかないさん」 舞台にあがる子、舞台から降りる子

□「舞妓さんちのまかないさん」(全9話) NETFLIXで配信中是枝裕和が総合演出・監督・脚本を務める。撮影に近藤龍人など映画界屈指のスタッフが集結。本作は料理が重要なモチーフ。「かもめ食堂」「南極料理人」の飯島奈美がフードスタイリストを担当。出演…

映画「離れ離れになっても」 自分たちを熱くさせてくれるもの

□かつての若者たちの叙事詩1982年のローマ、16歳の4人の少年少女が出会います。彼らは自力で修理した赤い車に乗り込み、「自分たちを熱くさせてくれるものに乾杯」と歓喜します。そのなかで唯一の女の子ジェンマとパオロは恋に落ち、ジュリオとリカルドはお…

ドラマ「透明なゆりかご」 それでも子どもがほしいと思えた

□「透明なゆりかご」(全10話) NHKオンデマンドで視聴2018年に放送され多くのドラマ賞を獲得。脚本は「 #100万回言えばよかった 」「 #きのう何食べた? 」の安達奈緒子。出演は清原果耶、瀬戸康史、水川あさみ、原田美枝子、酒井若菜ほか.□生まれる命と消…

映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」 君への想いは変わらない

勤勉で謙虚な天才。彼の音楽が次々と紹介されていく。それは映画史そのもの。創った曲はいつもまず妻の意見を求める。知らない作品も少なくないのに鼓動が高鳴ってくる。悲しくもないのにメロディで泣きそうになる。荒野の用心棒、アンタッチャブル、ワンス…

映画「SHE SAID シーセッドその名を暴け」 虐待と恐怖が”普通”の世界

「ママはレイプをつかまえているの?」権力者の性的暴行を暴こうとする女性記者ジョディ。彼女の幼い娘がそう聞いてくる。小さな子どもたちまでがそんな言葉を使っていることにジョディは慟哭する。自分の娘には虐待のある世界を”普通のこと”だと思ってほし…

映画「泣いたり笑ったり」 ブラジャーをしています

孫までいる推定60代の男ふたりが「ボクたち結婚します」とカミングアウト。 白髪キザなおっちゃんは「トニ」ゴツい漁師のおっちゃんは「カルロ」 このふたりがジュテーム♥ それぞれの家族では「男かよ!」と大騒ぎ。 カルロの息子サンドロさん「ざけんな、オ…

映画「オレの記念日」 冤罪でも楽しい

20歳から49歳までの29年間、無実で服役した桜井昌司氏。 「冤罪で捕まって、よかった」 「刑務所ではつらつと楽しく過ごしました」 沈鬱な冤罪ノンフィクションを想像すると、突飛な彼の言葉にあ然とする。 言葉の力。 目の前の状況を正確に表すのが言葉だが…

映画「恋のいばら」 あなたがいるから映画館

お客さんはふたりでした。もうひとり女性のお客さんは居心地が悪かったかもしれないけれど、自分はとても助かりました。映画館に自分以外のお客さんがいることは大事です。 例えば…『他のお客さんがいるから、鼻毛とか抜かないでちゃんと観よう。』とか、『…

映画「非常宣言」 まんじりともしなかったのに、まんじりともしなかった

「非常宣言」 航空機パニックムービーとして一級品だが、その凶器が感染ウィルスということで、"自分の映画"だと今を生きる観客を引き寄せしまう剛腕ぶり。犯人の素性や動機を知りたいという観客の気持ちはあっけなく砕かれ、そのあたりも非常に今日的だ。事…

映画「クライング・ゲーム」(再上映) 立ち尽くす赤いポスター

1993年にアカデミー脚本賞を受賞したサスペンスドラマの劇場再上映。主人公のファーガスはIRA兵士で、人質として拉致したイギリス兵ジョディの見張り役を務める。敵対する立場ながらふたりは会話を重ね、奇妙な関係が成立していく。主導権は拉致されているイ…

映画「THE FIRST SLAM DUNK」 死の匂い

いま新しい表現の誕生に立ち会っているという喜びと戸惑いがある。「かぐや姫の物語」を観たときの衝撃がよみがえる。それは新しい表現とともに、作品に強烈な”痛切さ”が流れているからだ。どうしても描かなければいけない”痛切さ”があり、そのためには何と…

映画「ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY」 娘を抱けないスターというシステム

歌声が注目されて、彼女が笑う。眩いライトを浴びて、彼女が笑う。スーパーボールで歌い、彼女が笑う。彼女の最期を知っているだけに、全ては終局へのカウントダウンのようで胸が痛い。一段ずつ駆けあがるスターへの階段が、「十三階段」のように感じる。 高…

映画「七人楽隊」 あと1回、あと1回という焦燥

7人の香港映画監督によるオムニバス。1950年代から未来にかけてまでの香港を監督たちが分担して描いていく。歴史を振り返ると香港も実に数奇なところだ。 1842年 アヘン戦争後、イギリス領となる 1941年 第二次大戦下、日本領となる 1945年 終戦後、イギリス…

映画「中島みゆき劇場版ライヴヒストリー2」 中島みゆき歌合戦

2004年~2020年ライブからの15曲。MCなしの90分。すべては歌にあると言わんばかりの説得力。彼女は絶望と希望に憑依され、祈りを歌う巫女のようだった。『命につく名前を心と呼ぶ 名もなきキミにも名もなきボクにも』唸るように伸びゆく歌声が映画館に轟く。…