映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「さらば、わが愛/覇王別姫」 かつて確かにあったのだ

□言葉にできない

今日は珍しく隣にまで人が座っている
その女性は上映中何度も口元を抑えた

頭でブロックを割る場面で
子どもたちがお尻を叩かれる場面で
もちろん幼き主人公の6本目が斬られる場面でも

客席には人が多く
リアクションもあった
パンフレットも売れているようだ

30年前はVHSで観た
言葉にできない衝撃
それを分かち合う人もおらず
ひとりで飲み込んだ

今回は劇場で多くの人と観られてうれしい
しかし言葉にできないような気持ちに変わりはない



□短絡的な言葉

“運命”なんて言葉は出来るだけ使いたくないが
映画が進むにつれてその印象が濃くなる

主人公の小豆子が母に捨てられたこと
兄弟子小石頭の優しさに心をゆだねたこと

芝居の才能と美しさが開花してしまったこと
抗日戦争から文化大革命に至る中国で生きたこと

それらは避けがたい彼らの運命に思える
人が抗えないものがこの映画には描かれている

3人は互いを愛して 深く憎んだ
文字にすれば愛憎というたった2文字だけれど

コン・リーは反目するレスリーを抱きしめさえした
レスリーは彼女の胸で「おかあさん」とつぶやいた

こんな場面に立ち会っていると
それなら3人はどういう生き方をすれば
幸せだったのか私には皆目見当がつかなくなる

運命

随分と短絡的な言葉が浮かんでしまう



□1993年の私

ねぇ30年前に何を見ていたの

ひどく打ちのめされたことは憶えているけど
まだ年若かった私はこの映画の何を見て
言葉にできない衝撃を受けたのか

 古く美しいものが朽ちる無常
 憎んでもまた愛してしまう人の業
 人心を狂わす芝居の魔力

文革の粛清の場面
炎が立ち 陽炎のように空気が揺れ  
人の形相がゆがむ

ついに小石頭が小豆子と京劇を裏切る
ペイントレスラーの試合後のように
化粧は無残になっている

菊仙を淫売だと糾弾した小豆子
美しいはずのレスリー・チャンの顔は
道化師のように泣き顔に見える

菊仙は生気がない顔をキャメラにまっすぐ向ける
コン・リーの瞳は伽藍洞だ

これを観て1993年の私は何を思ったのだろう

さらば、わが愛
でもかつて確かにあったのだ
だからこそ「さらば」と消えたのだ

そのことを私はわかっていたのだろうか



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