映画「キングメーカー大統領を作った男」 血塗られない政治劇
金大中と選挙参謀の映画と聞いて、これから血塗られた現代史を自分は観るのだと想像していた。
しかし、本作は実にスマートな映画だった。
監督自身が言っている。
「野暮ったくない洗練された選挙戦の話を描いてみたかった」
金大中と言えば、日本で拉致された金大中事件、光州事件、死刑判決、大統領就任と韓国現代政治の壮絶さや情念をもっとも体現する人物である。
しかし監督は金大中や当時の時代背景が持つ固有のドロドロさをまったく作品の核にしなかった。
むしろ実話としての出来事を借りながらも、監督の”映画力”や”演出”で時代性から脱却した作品となっている。
印象的なのは”ルック”である。
俳優の演技や造形、カメラワーク、照明、美術。
こういった目に見えるものにこそ監督の美学が映し出される。
この映画はルックがことごとくスタイリッシュだ。政治劇には似つかわしくないほどに。
金大中や周辺の人々の固有の情念が作品を主導するのではなく、監督自身の映画力がイニシアティブをとるように仕立てている。
だから本作は「血塗られた韓国現代政治」ではなく、「光と影、それぞれを担ったふたりの男」を流麗に見せる作品となっている。
それは”寓話的”といってもいいくらいに、どこの国でもいつの時代でも共通する物語にまで研磨されている。別に金大中でなくてもいいというくらいに、誰であってもあてはまるところまで。そんなふうに素材に頼らず、血なまぐささは取り除き、芸術性や技術力で監督は勝負している。
そうなのだ。もし血塗られた韓国政治を描きたければ、設定はこの大統領選挙ではなく、もっと先の事件が適している。金大中にとってここで描かれているのは激動の人生のほんの序章に過ぎない。
韓国政治固有の血なまぐささや情念にとらわれることを嫌い、光と影の美しさと虚しさで世界の人たちが自分ごととして受け止められる作品をつくろうとしたビョン・ソンヒョン監督。
過激でエクストリームという韓国映画のイメージに固執する人を笑うかのような光と影が美しい政治劇だ。
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