2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧
冒頭、マグリットの「複製禁止」という絵画からはじまる。絵の中の男はこちらに背を向ける格好で鏡の前に立っているのだが、鏡に映っているのは自分の後ろ姿という奇妙な絵画だ。鑑賞者は2つの後ろ姿を見せられることになる。さらに画面には、その絵画を見…
この映画で描かれている階級闘争も、同調圧力も、生の虚無も、自己実現も、すべてが”ショット”で描かれているということに心臓が鼓動した。本作の公開は2012年、「公開10周年記念上映」で劇場にかけられた。11月25日から1週間の限定公開。朝井リョウ原作、吉…
母性。それはそもそも備わっていると考えていいものか。いつまでも娘でいたい母親を戸田恵梨香、母の期待に応えたい娘を永野芽衣が演じる。戸田恵梨香が演じたルミ子の”大好きな母のようになる”との妄信的マインドセットを見ていると、それはほとんどサイコ…
寺島しのぶと”これから一発やるぞ”というときに男が口にした対照的なふたつのセリフ。「オレはあんたを抱きに来た」(豊川悦司)「ああ、エサの時間か」(高良健吾)まさに男女のセックスをめぐるビフォア・アフターだ。トヨエツはホテルのドアをガチャリと…
”湿地の少女”は野生だ。だから彼女は植物や動物と同じように善悪の概念に縛られない。法にも教育にも宗教にも無縁で生きてきた。あったのは生きることに必死だったということ。彼女には「生きることこそが最大の善」である。彼女は、水に飛び込み、鳥の羽と…
この映画が東京国際映画祭の観客賞。フフフフ。これに共感するオーディエンス。フフフフ。膿んでるな。相当、膿んでるな観客。稲垣吾郎はじめ人物たちは愛おしくずっと観ていられそうなほど心地いいのだが、アレ待てよ、よく考えてみれば描かれているのはち…
「インド、やるじゃん!」は「インドくん、すごいなぁ♪」になり、やがて「イ、インドさん、なんかボクにできることある…」から「え、日本だよ、日本、知らないって、またまたぁ(涙)」と声が震えてくる。インド映画「RRR」ダンスとアクションのわんこそば、…
本作の製作費は8000万ドルかかっていて、興収惨敗で9700万ドルの赤字になるらしいなんで製作費より赤字額が大きいのかはわからないが、なにか事情があるのだろう。日本円で135億円(140円/ドル換算)の負債をかっ飛ばす”マッカチン映画”こんな大型倒産ムービ…
映画が終わったあと「おもしろかったですねぇ」と見知らぬ観客に話しかけたかった。こんなにいい作品を観たのになんでそれを喜び合うこともせず、独りで帰らなきゃいけないんだと悲しかった。娘を演じた井上真央。その娘がどうしても好きになれない母が石田…
「空気を読む」という優しく卑しい行為は、ときにひどく相手をイラつかせる。私は気を使われているのか、こいつは私の気持ちを汲めるとでも思っているのか、ずいぶんナメられたものだなと対象者を不愉快にさせる。せっかく自分を殺して空気を読んだというの…
肉親や仲間の命を奪われた悲しみは、憎悪に変じる。 憎悪を清算するのに、相手にも同等の苦しみを求める。 殺されたから殺す。死は死で償って当然だ。しかし人間が恩讐の彼方に武器を置くことができたら、返報を放棄することができたら。できたところで、憎…
白衣を脱いでショベルカーに乗り、アフガニスタンに水路と小麦をつくった中村医師。彼が死んだとき、日本の為政者は「テロを断じて許すことはできない」と言った。中村医師なら"許す"と言ったと思う。氏は暴力の上塗りを拒否し、大義があっても戦闘に与しな…
こんなに清々しく映画館をあとにするとは思わなかった。だいたい、ドキュメンタリー映画って絶望必至みたいなもんだ、だいたい。しかも本作の題材は”脱原発”国策である原発に立ち向かってボロボロのボロンボロンになる人たちを見せられ”どよー-ん”ってなっ…
欺瞞に苦しむ人物たちのこの小説を読んでいるとき、その時間は救われていた。生きることにのたうつ彼らと過ごすのが愛おしかった。めくって、最後のページを目にしたとき。それは新しい段落からはじまり、一切の改行がなく、そして左に気持ちのいい大きな余…
リベラルを自認する身としては本作を鑑賞して「多様性バンザイ!」と快哉を叫ぶ予定だった。しかし、おそらくロシアであろう矯正施設の責任者が”自然の摂理”に則って性的マイノリティを治療すると語った場面あたりからなんだか考え込んでしまった。”自然の摂…
「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」公開にあたり、2018年公開の「ブラックパンサー」が劇場で上映中。「危機に瀕したとき、賢者は橋をかけ、愚者は壁を造る。」ラストで、ワカンダ国王でありブラックパンサーであるティ・チャラ(故チャドウィック…