映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画

映画「離れ離れになっても」 自分たちを熱くさせてくれるもの

□かつての若者たちの叙事詩1982年のローマ、16歳の4人の少年少女が出会います。彼らは自力で修理した赤い車に乗り込み、「自分たちを熱くさせてくれるものに乾杯」と歓喜します。そのなかで唯一の女の子ジェンマとパオロは恋に落ち、ジュリオとリカルドはお…

映画「モリコーネ 映画が恋した音楽家」 君への想いは変わらない

勤勉で謙虚な天才。彼の音楽が次々と紹介されていく。それは映画史そのもの。創った曲はいつもまず妻の意見を求める。知らない作品も少なくないのに鼓動が高鳴ってくる。悲しくもないのにメロディで泣きそうになる。荒野の用心棒、アンタッチャブル、ワンス…

映画「SHE SAID シーセッドその名を暴け」 虐待と恐怖が”普通”の世界

「ママはレイプをつかまえているの?」権力者の性的暴行を暴こうとする女性記者ジョディ。彼女の幼い娘がそう聞いてくる。小さな子どもたちまでがそんな言葉を使っていることにジョディは慟哭する。自分の娘には虐待のある世界を”普通のこと”だと思ってほし…

映画「泣いたり笑ったり」 ブラジャーをしています

孫までいる推定60代の男ふたりが「ボクたち結婚します」とカミングアウト。 白髪キザなおっちゃんは「トニ」ゴツい漁師のおっちゃんは「カルロ」 このふたりがジュテーム♥ それぞれの家族では「男かよ!」と大騒ぎ。 カルロの息子サンドロさん「ざけんな、オ…

映画「オレの記念日」 冤罪でも楽しい

20歳から49歳までの29年間、無実で服役した桜井昌司氏。 「冤罪で捕まって、よかった」 「刑務所ではつらつと楽しく過ごしました」 沈鬱な冤罪ノンフィクションを想像すると、突飛な彼の言葉にあ然とする。 言葉の力。 目の前の状況を正確に表すのが言葉だが…

映画「恋のいばら」 あなたがいるから映画館

お客さんはふたりでした。もうひとり女性のお客さんは居心地が悪かったかもしれないけれど、自分はとても助かりました。映画館に自分以外のお客さんがいることは大事です。 例えば…『他のお客さんがいるから、鼻毛とか抜かないでちゃんと観よう。』とか、『…

映画「非常宣言」 まんじりともしなかったのに、まんじりともしなかった

「非常宣言」 航空機パニックムービーとして一級品だが、その凶器が感染ウィルスということで、"自分の映画"だと今を生きる観客を引き寄せしまう剛腕ぶり。犯人の素性や動機を知りたいという観客の気持ちはあっけなく砕かれ、そのあたりも非常に今日的だ。事…

映画「クライング・ゲーム」(再上映) 立ち尽くす赤いポスター

1993年にアカデミー脚本賞を受賞したサスペンスドラマの劇場再上映。主人公のファーガスはIRA兵士で、人質として拉致したイギリス兵ジョディの見張り役を務める。敵対する立場ながらふたりは会話を重ね、奇妙な関係が成立していく。主導権は拉致されているイ…

映画「THE FIRST SLAM DUNK」 死の匂い

いま新しい表現の誕生に立ち会っているという喜びと戸惑いがある。「かぐや姫の物語」を観たときの衝撃がよみがえる。それは新しい表現とともに、作品に強烈な”痛切さ”が流れているからだ。どうしても描かなければいけない”痛切さ”があり、そのためには何と…

映画「ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY」 娘を抱けないスターというシステム

歌声が注目されて、彼女が笑う。眩いライトを浴びて、彼女が笑う。スーパーボールで歌い、彼女が笑う。彼女の最期を知っているだけに、全ては終局へのカウントダウンのようで胸が痛い。一段ずつ駆けあがるスターへの階段が、「十三階段」のように感じる。 高…

映画「七人楽隊」 あと1回、あと1回という焦燥

7人の香港映画監督によるオムニバス。1950年代から未来にかけてまでの香港を監督たちが分担して描いていく。歴史を振り返ると香港も実に数奇なところだ。 1842年 アヘン戦争後、イギリス領となる 1941年 第二次大戦下、日本領となる 1945年 終戦後、イギリス…

映画「中島みゆき劇場版ライヴヒストリー2」 中島みゆき歌合戦

2004年~2020年ライブからの15曲。MCなしの90分。すべては歌にあると言わんばかりの説得力。彼女は絶望と希望に憑依され、祈りを歌う巫女のようだった。『命につく名前を心と呼ぶ 名もなきキミにも名もなきボクにも』唸るように伸びゆく歌声が映画館に轟く。…

映画「ラーゲリより愛を込めて」 脳内で違うストーリーに書き換えた

上映中、一方では演出が好みではないと閉口し、もう一方ではこの題材に取り組んだ製作陣に敬意を抱いた。そんな両方の意味で「なんだこの映画」と思いながら、閉口と敬意の均衡でスクリーンに強く集中していた。松坂桃李の「私はまた卑怯に戻ったのです」と…

映画「かがみの孤城」 ささやかな声、日の差さない部屋。

中学生たちが生きる世界は過酷だ。「だから逃げてもいいし、こんな世界とまともに向き合わなくてもいい。」そう言うのは簡単だが、それができないから苦しんでいる。自分を思い出す。どうして自分は中学から逃げられなかったんだろう。そして、実際に中学に…

映画「ケイコ目を澄ませて」 美しいケイコの音

こんな「はい」を聞いたことがない。「つぎのしあい、たのしみだね」と会長の妻(仙道敦子)に言われたとき。耳の聞こえない彼女は頷くだけでいいのに、声に出して「はい」と言った。ケイコの厚ぼったい背中と、自分で塗った蒼いマニュキア。世界でいちばん…

映画「そばかす」 映画はきっと誰かの味方

誰かの味方のような映画だった。三浦透子が演じる佳純は恋愛感情や性的欲求がない30歳の女性。周囲が恋愛や結婚を急かしてくることへの違和感をひとり抱えて生きている。つき合いの合コンは居心地が悪く、家では妹が出産を控えており、母にはもっと明るい服…

映画「恋に落ちたシェイクスピア」 うまくいく!謎だけど。

「ロミオとジュリエット」を観ると狂おしくなる。劇場を出るとき”オレも死にたい”という興奮に駆られるのは、この物語の疾走感のせいだ。若きふたりは出会って4日目に死す。でもそれが短いとは思えないし、かわいそうなんてもっと思えない。出会って翌日に結…

映画「人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版」 指も自意識もないふたり

この人のように生きたいと心から思った。思うどころかそれは祈りに近かった。山野井泰史(やまのいやすし)は、登山における世界最高賞に選ばれるクライマー。少年時代から山に憑りつかれ、ひとり世界中の絶壁にへばりつく。50代の泰史は実にあどけなく、「…

映画「あのこと」 その音を忘れない

妊娠したことを女性だけが抱える映画がある。それが現実だからだ。 母にも言えず、膨らむ腹をひとり見つめる。ひとり黙って苦しむ横顔。 「17歳の瞳に映る世界」「朝が来る」「わたし達はおとな」「ベイビー・ブローカー」…… その時みんな女はひとり。 あと…

映画「月の満ち欠け」 尿漏れ、口内炎など

鑑賞後に、廣木隆一監督のこれまでのインタビューとかを出来るだけ読んだ。 やっぱりそうだ。 たとえば恋愛映画のリアルについて監督が語っているコメント。ー--------------------------------------カップルの数だ…

映画「シスター夏のわかれ道」 ショートカットを笑わせろ

まさか中国でデモが起きた。果敢な彼らにどうやって心を寄せたらいいかわからない。自分がデモに加わるわけにも行くまい。しかし心が落ち着かない。だから中国映画に行くことにした。そしたらいつも何かに怒っているショートカットにますます落ち着かなかっ…

映画「ある男」 背中が痛い

冒頭、マグリットの「複製禁止」という絵画からはじまる。絵の中の男はこちらに背を向ける格好で鏡の前に立っているのだが、鏡に映っているのは自分の後ろ姿という奇妙な絵画だ。鑑賞者は2つの後ろ姿を見せられることになる。さらに画面には、その絵画を見…

映画「桐島、部活やめるってよ」(10周年記念公開) より美しくより残酷に

この映画で描かれている階級闘争も、同調圧力も、生の虚無も、自己実現も、すべてが”ショット”で描かれているということに心臓が鼓動した。本作の公開は2012年、「公開10周年記念上映」で劇場にかけられた。11月25日から1週間の限定公開。朝井リョウ原作、吉…

映画「母性」 母を捨てよ、家を出よう

母性。それはそもそも備わっていると考えていいものか。いつまでも娘でいたい母親を戸田恵梨香、母の期待に応えたい娘を永野芽衣が演じる。戸田恵梨香が演じたルミ子の”大好きな母のようになる”との妄信的マインドセットを見ていると、それはほとんどサイコ…

映画「ザリガニの鳴くところ」 湿地の沼で心を洗う

”湿地の少女”は野生だ。だから彼女は植物や動物と同じように善悪の概念に縛られない。法にも教育にも宗教にも無縁で生きてきた。あったのは生きることに必死だったということ。彼女には「生きることこそが最大の善」である。彼女は、水に飛び込み、鳥の羽と…

映画「窓辺にて」 膿んだ観客は光の中でたゆたう

この映画が東京国際映画祭の観客賞。フフフフ。これに共感するオーディエンス。フフフフ。膿んでるな。相当、膿んでるな観客。稲垣吾郎はじめ人物たちは愛おしくずっと観ていられそうなほど心地いいのだが、アレ待てよ、よく考えてみれば描かれているのはち…

映画「RRR」 インドの覇権を確信する

「インド、やるじゃん!」は「インドくん、すごいなぁ♪」になり、やがて「イ、インドさん、なんかボクにできることある…」から「え、日本だよ、日本、知らないって、またまたぁ(涙)」と声が震えてくる。インド映画「RRR」ダンスとアクションのわんこそば、…

映画「アムステルダム」 大型倒産を刮目する

本作の製作費は8000万ドルかかっていて、興収惨敗で9700万ドルの赤字になるらしいなんで製作費より赤字額が大きいのかはわからないが、なにか事情があるのだろう。日本円で135億円(140円/ドル換算)の負債をかっ飛ばす”マッカチン映画”こんな大型倒産ムービ…

映画「わたしのお母さん」 映画の観客でよかった

映画が終わったあと「おもしろかったですねぇ」と見知らぬ観客に話しかけたかった。こんなにいい作品を観たのになんでそれを喜び合うこともせず、独りで帰らなきゃいけないんだと悲しかった。娘を演じた井上真央。その娘がどうしても好きになれない母が石田…

映画「君だけが知らない」 買いすぎた歓心を売ってしまいたい

「空気を読む」という優しく卑しい行為は、ときにひどく相手をイラつかせる。私は気を使われているのか、こいつは私の気持ちを汲めるとでも思っているのか、ずいぶんナメられたものだなと対象者を不愉快にさせる。せっかく自分を殺して空気を読んだというの…