映画
母性。それはそもそも備わっていると考えていいものか。いつまでも娘でいたい母親を戸田恵梨香、母の期待に応えたい娘を永野芽衣が演じる。戸田恵梨香が演じたルミ子の”大好きな母のようになる”との妄信的マインドセットを見ていると、それはほとんどサイコ…
”湿地の少女”は野生だ。だから彼女は植物や動物と同じように善悪の概念に縛られない。法にも教育にも宗教にも無縁で生きてきた。あったのは生きることに必死だったということ。彼女には「生きることこそが最大の善」である。彼女は、水に飛び込み、鳥の羽と…
この映画が東京国際映画祭の観客賞。フフフフ。これに共感するオーディエンス。フフフフ。膿んでるな。相当、膿んでるな観客。稲垣吾郎はじめ人物たちは愛おしくずっと観ていられそうなほど心地いいのだが、アレ待てよ、よく考えてみれば描かれているのはち…
「インド、やるじゃん!」は「インドくん、すごいなぁ♪」になり、やがて「イ、インドさん、なんかボクにできることある…」から「え、日本だよ、日本、知らないって、またまたぁ(涙)」と声が震えてくる。インド映画「RRR」ダンスとアクションのわんこそば、…
本作の製作費は8000万ドルかかっていて、興収惨敗で9700万ドルの赤字になるらしいなんで製作費より赤字額が大きいのかはわからないが、なにか事情があるのだろう。日本円で135億円(140円/ドル換算)の負債をかっ飛ばす”マッカチン映画”こんな大型倒産ムービ…
映画が終わったあと「おもしろかったですねぇ」と見知らぬ観客に話しかけたかった。こんなにいい作品を観たのになんでそれを喜び合うこともせず、独りで帰らなきゃいけないんだと悲しかった。娘を演じた井上真央。その娘がどうしても好きになれない母が石田…
「空気を読む」という優しく卑しい行為は、ときにひどく相手をイラつかせる。私は気を使われているのか、こいつは私の気持ちを汲めるとでも思っているのか、ずいぶんナメられたものだなと対象者を不愉快にさせる。せっかく自分を殺して空気を読んだというの…
肉親や仲間の命を奪われた悲しみは、憎悪に変じる。 憎悪を清算するのに、相手にも同等の苦しみを求める。 殺されたから殺す。死は死で償って当然だ。しかし人間が恩讐の彼方に武器を置くことができたら、返報を放棄することができたら。できたところで、憎…
白衣を脱いでショベルカーに乗り、アフガニスタンに水路と小麦をつくった中村医師。彼が死んだとき、日本の為政者は「テロを断じて許すことはできない」と言った。中村医師なら"許す"と言ったと思う。氏は暴力の上塗りを拒否し、大義があっても戦闘に与しな…
こんなに清々しく映画館をあとにするとは思わなかった。だいたい、ドキュメンタリー映画って絶望必至みたいなもんだ、だいたい。しかも本作の題材は”脱原発”国策である原発に立ち向かってボロボロのボロンボロンになる人たちを見せられ”どよー-ん”ってなっ…
リベラルを自認する身としては本作を鑑賞して「多様性バンザイ!」と快哉を叫ぶ予定だった。しかし、おそらくロシアであろう矯正施設の責任者が”自然の摂理”に則って性的マイノリティを治療すると語った場面あたりからなんだか考え込んでしまった。”自然の摂…
「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」公開にあたり、2018年公開の「ブラックパンサー」が劇場で上映中。「危機に瀕したとき、賢者は橋をかけ、愚者は壁を造る。」ラストで、ワカンダ国王でありブラックパンサーであるティ・チャラ(故チャドウィック…
「お前、弟のジョーイとファックしたか?!ファックしたんだろ!」(狂)「ああやったわよ、あんたのより立派だったわよ、町中の男のをくわえてやったわよ」(逆ギレ)ボコボコボコボコ(殴)病的な猜疑心の主人公ジェイクが、妻のビッキーに弟とセックスした…
おっぱい出しちゃって、奴隷になっちゃって、とびきりの表情で、「カノンさま、愛してる!」って、自己の解放を仰ぐ。この息苦しい国にあって、これ以上の素晴らしい突き抜けはない。ブラーボ!新しい映画を観たという充足感。映画が始まるや既視感ゼロな面…
主人公バンジャマンと一緒に死ぬことができる映画だ。死ぬことは怖かった。なにも成し遂げていないのに死ぬと思ったらとても哀しかった。オレは演劇教師なのだが、生徒の肌と肌が重なるところが愛そのものに輝いて見えた。もっと演技レッスンがしたくなった…
下品な映画だ。下品なオレが下品だということは、一般的には「きれいな映画だ」ということになる。一般?!なんだそりゃ。一般なんて人はいないし、自分は一般人と思っている人もいない。みんな固有の美と悪と臭さとズルさと素直さと性欲とかゆみと虫刺され…
2020年の幡ケ谷バス停殺人事件。バス停で眠っていた60代の女性が近所の男性に「邪魔だった」と殴り殺された事件。彼女の所持金は8円だった。若き日は劇団でキラキラと活動し、結婚は夫の暴力で破綻し、スーパーの試食販売員として活躍し、家族には絵葉書を送…
客席で「名人かよ」とつぶやき、息を吐いた。エンドロール、曲は「スロウタイム」。ラストシークエンス。これまで無反応だった父(金田明夫)が初めて長女を名前で呼ぶ。「さわちゃん」カットバックでさわ子(福永朱梨)が大きく映る。父の呼びかけに照れな…
その手があったか。上司がどうしてもイヤで、妻の寝顔がどうしてもイヤで、政権与党がどうしてもイヤならば”失踪”してしまえばいいのだ。年間行方不明届は約8万件。そんな甘美な夢に田中裕子が仁王立ちでストップをかける。30年間夫の帰りを待つ女。それを想…
「ザ・マスター」(2012年公開)ポール・トーマス・アンダーソン監督中洲大洋劇場にてリバイバル上映ありがと♪全然歯が立たなかった。わからない時間がずーと続いていた。終わったとき他のお客さんに「え、えー--!これ、わかりました!?」ってブンブン揺…
ダチのマリコ(奈緒)を亡くしたシイノ(永野芽郁)は、遺骨を抱いて旅に出る。いまどき「ダチ」だって、いいね。シイノは、ラーメンひと口がやけにデカくて、スマホの画面が割れていて、「クソ上司」と登録していて、営業職なのに髪が明るくて、靴のスペア…
2019年香港の民主化デモを描いたドキュメンタリー。映像で観るその様相はデモというより内戦で、香港は戦場だった。体制維持のためなら自国民を粛々と殺す「国家の実相」が映っている。普通選挙の実現などを要求したデモ参加者は、香港市民700万人のうち200…
「尊敬する監督は?」と聞かれたとき映画好きは何と答えるだろうか。愛好家がいる場面では「成瀬己喜男」とマウントを取りにいくだろうか。女子にモテたいときは「PTA、あ、ゴメン、ポールトーマスアンダーソン」とスカすか。「ビッグボス、新庄だね!」は避…
理屈の通った世界で生きていると思っている。1に1を足せば2になり、働けば対価があり、罪を犯せば罰がある世界。真面目にやっていれば、まぁ何とかなる世界。ところがこれは人間の論理である。四方を山々が囲み、無慈悲な風が草原を揺らし、鈍ぃ陽光しか差…
PFFでグランプリを獲った気鋭監督の青春映画である。恥ずかしい。きっと私は苦り切った顔でスクリーンを観ていたことだろう。青春映画。バイクふたり乗り、ぶつかり合う裸、レコードとカセットテープ、ここではないどこかへ、赤いブラジャー、親との確執、喧…
冒頭から”やさしい”がありました。後部座席のネリーは運転中のママの口元に菓子を運ぶ。自分が食べているスナックをママにもひとつ、ふたつ、みっつと無言で口元へ。ママも素直にサクサク食べる。次にストローを差し出す。そろそろジュースでしょという感じ…
「こちらあみ子」のよい評判は聞いていた。主題性においても、撮影技法(哲学)においても傑作と評する方がいることを。封切り時は行けなかったが、今また劇場でかけてくれているので足を運ぶ。鑑賞後のことだが、『私もあみ子だった』『私の中にもあみ子は…
「そんなバカなことあるか、コラ」まるで小学校低学年のガキが考えたような映画の決着。なんだこれ金返せとでも言いたいところだが、笑うしかなかった。だって実話だというのだから反論のしようがない。だから本当に客席で笑った。私財を投げ打ち、貧しい生…
松井玲奈が演じる顔の左側にアザを持つアイコ。そんなアイコと一緒に旅するような100分の映画だ。彼女の内面に耳を澄ます100分間。 旅の始まりは彼女にアザがあることで、がんばれって気持ちで寄り添っていたかもしれない。アイコはやがて映画監督の飛坂(と…
深田晃司監督の「LOVE LIFE」があまりに素晴らしかった中、市の映像ホールで同監督の2011年「歓待」が公開されていた。監督の源流を観たくて足を運ぶ。そして返り討ちに合う。---------------------------------第23回東京国際映画祭日本映画・ある視点部門…