映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「よだかの片想い」 もうがんばれとは思わなかった

松井玲奈が演じる顔の左側にアザを持つアイコ。

そんなアイコと一緒に旅するような100分の映画だ。彼女の内面に耳を澄ます100分間。

旅の始まりは彼女にアザがあることで、がんばれって気持ちで寄り添っていたかもしれない。

アイコはやがて映画監督の飛坂(とびさか)という男に恋をする。

「あなたなら、私の左側を否定しないと思ったから」

ほかに彼女はこう言った。

「私、飛坂さんのことを好きかもしれません」

「(キスを)もう一回」

「顔のアザを通して世界を見てきた」

「私、飛坂さんとつき合っているんです」

チビ、デブ、ハゲ、ブス、出っ歯、チンコ小さい、オッパイ小さい、シャクレ、ワキガ、変な声、変な病気、変なカラダ、変なワタシ…

外見やコンプレックスに支配されない者はいない。

そしてそれが振る舞いを抑圧したり、自分の自信に影響したりする。それはどうしたってある。

他方でアザがあってもなくても変わらない自分というものもある。それこそが本質的な自分なのかもしれない。

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儚げなアイコがはっきりと放った強い言葉。あの言葉をアイコはアザがなくても言ったのだろうか。

人を好きになるのは大変なことだ。
好きと伝えるのは、嫌われる覚悟がいる。
好きと伝えるのは、想いの醜さを晒す。

アイコは、どうして言えたのだろう。

アザを平気でいることはできない。
アザがあることを意識していて自信は持てない。
アザのない大勢の前に出ていくのは辛いことだ。

でも自分ひとりだけの世界ならどうだ。
ひとりならばアザにいいも悪いもない。
比べるものがなければアザはひとつの特徴でしかない。

では、私とあなたのふたりならどうだろうか。
あなただけの前なら、それは私とあなたの問題だ。
あなたがいいと言うなら、アザは別に悪ではない。

「あなたなら、私の左側を否定しないと思ったから」

やがてアイコは飛坂と別れた。
あなたとの日々は本当に夢のようだったと。

劇中何度も太陽の光が反射して、虹の輪にアイコは照らされていた。夕景に踊る最後のシーンでも光っていた。

何かが彼女を祝福していたのだろうか。もうがんばれとは思うことなく100分の彼女との道程は終わった。

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