映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「夜明けまでバス停で」 映画は異議申し立てでいい

2020年の幡ケ谷バス停殺人事件。

バス停で眠っていた60代の女性が近所の男性に「邪魔だった」と殴り殺された事件。彼女の所持金は8円だった。若き日は劇団でキラキラと活動し、結婚は夫の暴力で破綻し、スーパーの試食販売員として活躍し、家族には絵葉書を送り、コロナで職を失う。

バス停のベンチは手すりがあり横にはなれない。凍える夜を座ったままスーツケースに身をあずけて過ごした。

この映画を製作しないならなんのための映画会社だと思う。この映画をかけないなら映画館などやめてしまえと思う。

高橋伴明監督は、社会に異議申し立てをし、反権力であり、体に怒りを抱えている。

わかっている。そんなものが今どき流行らないことは。わかっている。「社会」なんて言ったら客が入らないことは。

だけど、それがなんだというのか。

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劇中に菅前首相の「自助、共助、公助」のニュース映像を挟んだり、板谷由夏演じる家を失い彷徨う三知子の背景に『TOKYO2020』のフラッグを批判的に映したり、柄本明演じるホームレスにベトナム戦争三里塚の政府対応を糾弾させる。

三里塚だよ、三里塚。今でもまだ三里塚を怒りを込めて批判する高橋伴明監督にオレは感動する。

三知子は居酒屋店員で、アクセサリー作家で、正義感が強く、前夫の借金を返していて、実家に送金するも関係は不仲で、ボランティアの弁当を受け取れないという人だ。

つまりオレたちだ。

彼女は、飲食店の残飯を漁っているのを咎められたとき人間が壊れた。

助けてが言えないなら社会ってなんだ。助けようと声を掛けないなら本当に社会の一員か。

劇中、あるホームレスは祈る。「明日こそ目覚めませんように」。

人間の豊かさが乏しかった大西礼芳演じる千晴という居酒屋正社員が、やがて企業の論理を捨てて三知子を探し出そうとする。

そうなのだ。社会なのだから困っている人に声を掛けるのだ。掛けない者は責められていいのだ。

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「人生で最高の1本」という質問は映画ファンにとって愚問だが、「人生で忘れたくない1本」と問われたら高橋伴明監督の「光の雨」(2001年)と答えたい。当時貧乏だったので、友人に頼んでこの映画を奢ってもらった。オレも劇団やっていた。

1972年の連合赤軍事件を描いた作品で「生きるすべての人たちが幸福になる世界をつくりたかった」若者たちがなぜ互いを殺しあうことになったのかを追う。

1972年生まれのボクはどういう国に生まれたのかと、いつもこの事件のことが気になっている。若き板谷由夏も出演している。

映画は社会的で、異議申し立てでいい。



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