映画「秘密の森の、その向こう」 怯えてないで、なにかできなかったか、まだ30代の彼女に
冒頭から”やさしい”がありました。
後部座席のネリーは運転中のママの口元に菓子を運ぶ。
自分が食べているスナックをママにもひとつ、ふたつ、みっつと無言で口元へ。ママも素直にサクサク食べる。次にストローを差し出す。そろそろジュースでしょという感じで。
それからママを抱きしめる。後部座席越しだからママの首に小さな腕を回しただけだが、8歳の女の子がママを間違いなく抱きしめた。
ママはただそっと微笑む。
ふたりは祖母(ママのママ)を亡くした帰りの車中だった。
シアマ監督の作品に限らずですが、とかく主題性で映画を観ようとしてしまいます。
きれいで、かわいくて、やさしいものが画面に映っていれば、それでいいんですよね。
ネリーとマリオンがキッチンでミルクが溢れそうだと大爆笑しているのが楽しいのならば、映画はそれでいいんですよね。
色がきれいで、人物がかわいくて、音楽がバーンって広がるように弾けるのが気持ちいい映画です。
秘密の森を抜けて、ふたりは同じ大きさで、しっかりと抱き合うことができました。
—-
ボクが7歳だから、ママは30代前半だったのか。
おばあちゃんが死んだ。
戦中の人だから労苦も多かったのだろうが、おばあちゃんもまだ60代前半だった。
ひどく痩せた人で、たばこをのむ人で、遺骨に茶色いシミがあった。
ママはとなりの和室に長い時間ひとりでいた。
そっと覗くと泣いていた。
かすかに嗚咽が聞こえてくることもあった。
かあちゃん、かあちゃんと言っているのだと何度目かにわかった。
ママの生家はとても貧しかったから、もっとおばあちゃんにいろいろしてやりたかったのだろう。
病床へは頻繁に行けなかったが、寿司屋でマグロの寿司折を買って叔母(ママの妹)によく託していた。
シスターフッドはムリだけど、スナック菓子でもいい、ジュースでもいい、背中をさわるでもいい、となりに座るだけでもいい、庇護者である親がこれまで聞いたこともない悲しい声で鳴くことに怯えてないで、なにかできなかったか。まだ30代の彼女に。