映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

ノンフィクション「東電OL事件 DNAが暴いた闇」(読売新聞社会部) ワールドカップより国民を意識するとき

2012年に読売新聞社会部が、東京電力女性社員殺人事件の有罪確定から無罪に覆った経緯を振り返ったノンフィクション。 1997年 東京電力女性社員殺害事件 2000年 第一審で被告に無罪判決 同年 逆転有罪判決で無期懲役 2011年 弁護側の要請で新たなDNA鑑定 201…

新書「ベルサイユのばらで読み解くフランス革命」(池田理代子) 革命は美しく散れない

フランス革命には、人間というものの現状変革の可能性と殺戮のおぞましさがある。安保闘争、香港デモ、天安門、ヒジャブ追悼デモ…圧倒的に非力に思える抗議活動であってもフランス革命のことを思う。フランス革命はどういう要素が重なって現状変革が実現した…

新書「異論正論」(石破茂) 本は政治家が透けてくる

政治家の考えを新書1冊の分量で拝聴するのは有意義であった。支持しているか否かに関わらずだ。代議士、つまりわれわれの議会を担っている人の考えを知って損はない。選挙演説やテレビの討論は、じっくり持論を展開できないから、本の方がいい。こうして文章…

ノンフィクション「虚ろな革命家たち」(佐賀旭)【世の中をよくしたい。世の中なんかよくならない。】

1972年のあさま山荘事件以来、この国は「政治の絶望」から逃れられないでいる。自分より20歳若い著者がこの事件と向き合ってくれた。あの時の若者はなぜ社会を変えようと立ち上がることができたのか。その若者たちはどうして陰惨な挫折をしていったのか。そ…

小説「むらさきのスカートの女」(今村夏子) ももいろのブリーフの男

「こちらあみ子」「あひる」と読んできて、今村夏子は不穏な語り手だという感触が拭えない。小中学生でも読めそうな平易な文章だが、行間に埋もれている罠が怖くて、一行ずつ地雷を確認するような足取りで読む。本作には「むらさきのスカートの女」という”お…

小説「ある男」(平野啓一郎) それはそんなに難しくないという顔で

映画では、主人公の城戸と美涼(谷口大祐の元恋人)の関係性の部分は大きく省略されている。二人がこれから本当の谷口大祐に会いに行く車中。その人の何をもってその人であるのかという話をしたあとの部分。これを読むまで"愛し直す"という言葉はきっと私の…

小説「アタラクシア」金原ひとみ 最終ページの景色

欺瞞に苦しむ人物たちのこの小説を読んでいるとき、その時間は救われていた。生きることにのたうつ彼らと過ごすのが愛おしかった。めくって、最後のページを目にしたとき。それは新しい段落からはじまり、一切の改行がなく、そして左に気持ちのいい大きな余…

随筆「パリの砂漠、東京の蜃気楼」(金原ひとみ) 消失への希求

2003年には世に出ていた金原ひとみをようやく認識する自分の愚鈍さと食わず嫌い。 それでもこの作家に邂逅したことは今年の福音。 本書はずっと立ち読みしていたのだが、やはりこれは尋常ではないと購入に至った。 「この私でこの世界で生きていくしかないこ…

小説「手」(山崎ナオコーラ) 社会なんかじゃ泣くこともできない

一人称による独白形式で書かれた小説。25歳の主人公さわ子が「社会」という言葉を使うところが2箇所ある。「私は大河内さんとそのあとも四回くらい、一緒に夕ごはんを食べ、食後に手を繋いだ。大河内さんと一緒にいるとき、私は非常に醒めている。それでも…