映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「劇場版 推しが武道館いってくれたら死んでもいい」 長澤まさみだってキムタクだって

□『劇場版 推しが武道館いってくれたら死んでもいい』

危険を顧みない勇敢な観客だけに
奇跡のような映画体験は与えられる

セレンディピティ
幸運を引き寄せる能力があると誰もが思いたい

『劇場版推しが武道館いってくれたら死んでもいい』

魅力的なタイトルである
内容は全く知らない
どうやら漫画原作であるらしい



何にでもいいところは
必ずあるはずだ

それを見出せないのは
対象よりも自分の方に欠陥がある

いいところ…
いいところ…

私は寛大な映画ファンでありたい

「こんなの映画じゃねぇ」

そんな排外的なことだけは
考えたくないと思ってこれまで生きてきました

たかが映画だ
ただ自分の好みと合わないだけだ

それなのになぜ客席にいる私はさっきから
不寛容で攻撃的な人格に豹変しているのだ

彼らは映画をつくった
なんの罪も犯していない

私は汚物にまみれた肌着を
隣家に投げ入れたことがある
酔って自転車を盗難して警察にも捕まった
親の財布から金を盗って
1万円すべてガチャポンをやった
原発や移民といった問題に
積極的に発言し行動することから逃げている

これらは間違いなく罪だ

『 推し武道』>私

スクリーンでは先ほどから人物の気持ちが
ほぼすべてナレーションで語られている

まるで超能力者になった気分だ
他人の心の声がすべて聞こえる

他人の心の声が聞こえないからこそ
私たちは日々葛藤しながら生きているのだ

そもそも自分の気持ちさえうまく言語化
できないから日々苦労しているのではないのか

いいところ…
いいところはどこなんだ

□そういうジャンル

人物の気持ちが
ナレーションで語られる

俳優は「今ここに存在している」のではなく
説明的に演技することが優先される

化粧したまま夜行バスで一晩過ごすなどなど
実在感のある設定がなされていない

表現全般に抽象性がなく
すべては説明可能なもので構成されている

ストーリーが単線で
人物たちを取り巻く社会は描かれないので
物語世界に奥行きを感じない

以上が自分がつらく感じる点だ

これは悪い点というよりも
「そういうジャンル」なのだ

わたしは当該ジャンルの「推し」ではない
ということなのだと思う

推しの方は世界の彼方まで推しまくってほしい

□楽しい映画館に死屍累々

人間は複雑で理不尽で生理的だ

そんな人間をアニメや漫画に
変換するという表現がある

瞳は大きくなり
発声ははっきりし
シワやニキビは描かれない

戯画的なキャラクターたちが
躍動する2次元の世界

それはときに作品世界の
主題や教訓に集中できたり
超現実を受け入れられたりと
生身の人間の演技以上の
効果を発揮することがある

一方で漫画のキャラクターを実写化するとは
どういうことなのだろうか

単純されたキャラクターを
複雑であるはずの生身の人間が演じる

2次元から3次元への変換にはなにが必須なのか

人間はそんなしゃべり方はしない
人間はそんな単純な感情じゃない

なにより世界はそんなにチョロくない

そんな違和感を観客に抱かせないように
製作者たちは漫画原作の実写化に挑んでいる

『タッチ』『SPACE BATTLESHIP ヤマト』…

楽しいはずの映画館の片隅には
「実写映画」が死屍累々と積み重なっている

本作の大谷健太郎監督は
見事『NANA』を撮っている
NANAなのだ
NANAなのに

ななななー
ななななー
実写化 アンミカ

あなたも手を合わせたことがあるだろうか
「実写映画」の亡骸に


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#劇場版推しが武道館いってくれたら死ぬ