映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「聖地には蜘蛛が巣を張る」 自分の欲望を制御さえできない


□女たちのヒジャブ

イランの女性たちが顔や身体を覆うヒジャブ

事件を追う女性ジャーナリストのラヒミ
彼女は赤いヒジャブをゆるく巻いて登場した

ホテルのフロントマンから
髪が見えていると指摘されても
余計なお世話だと一蹴した

警察や聖職者を訪問するときは
黒々とした厚手のヒジャブをまとう

個性も衝動も持たない
名も無きひとりの女性に埋没する

部屋に戻りヒジャブを脱ぐ
ウェーブのかかった髪
デニムがよく似合う
知的で美しい女性が姿をあらわす

娼婦は花柄のスカーフをかぶる
金髪に染めた髪を
堂々と見せている女性もいる

娼婦を16人殺害し
英雄に祀りあげられたサイード
その妻は目鼻がかろうじて見えるヒジャブ
自分を封印している

□男たちのヒジャブ

男たちはヒジャブで女性の
“不浄”を覆い隠そうとする

しかしわかっているのだ
自分の欲望を制御さえできないことを

そんな自身のあさましさを
女性に押しつけている

殺された女性はみな大きな布でくるまれ
闇の中に葬られた

聖地の日没後の闇は
人間の暗渠のように深い


□自在なカメラワーク

アリ・アッバシ監督の自在なカメラワーク
それはなにをとらえようとしているのか

聖地マシュハドの不気味さ
靴を履き替える女性の足元
善き隣人で善き殺人者のしている指輪
絶命する人間の大きく見開いた瞳
性交中に見える死んだ女の足の裏
留置所の窓から伸びる腕

この娼婦16人殺害事件は
イスラム教国ゆえの出来事と思えない

性差別も
セックスワーカーへの偏見も
権力の腐敗も
私のよく知る国でも存在している

いつも存在意義に怯えてたサイード
逮捕されてから堂々とした男になる

殺人事件に怯えていた国民が
浄化だ英雄だと盛りあがる

あどけなかったサイードの長男が
狂信的な瞳に豹変する。

そのことに戦慄する


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