映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「時をかける少女」(2週間限定上映) 繰り返せないから美しい


□「7月13日」

劇場のロビーには若い人が目立ちます
この作品は17年も前のものなんですが

2006年に公開された細田守監督の
時をかける少女』が2週間限定で上映されています

特に今日7月13日は劇中での日付と一致する

主人公の真琴がタイムリープを繰り返すうち
生きることは取り戻せないからこそ
美しいと気づいてしまうその日です

私たち観客は幸福です
繰り返しこの作品を観ることができる
真琴はもう時間を繰り返すことができないから
一刻も早く未来へ行こうとしてるというのに

一回性を描いたこの作品に
今日たくさんの人が集まっています

□あなたがいる未来

教室での他愛もない会話
30点だった小テスト
男女3人での野球
制服から伸びた長い手足

そのとき登場人物たちは知らない
それらこそが全部青春であるということを

そして観客は知っています
スクリーンに映っている彼らの日常は
高校生が終われば二度と巡ってこないと

青春と夏はやけに相性がいいです
永遠に続くように思える暑さは
実にあっけなく終わる

終わることに気づかずキャッチボールする人物たち
終わることを知っていてそれを見守る私たち観客

「待ってられない未来がある。」

年なんてとりたくないと人は言いますが
劇中で真琴はまったく違うことを言います

 あなたがいる未来へ すぐ行く 走っていく

友人の功介は自身の最後のセリフで真琴に
「前向いて歩けよ」と声をかけます

そう時間は戻せない
だから前に未来に進むしかない

未来を楽しみにしていたのはいつだったか
変えたい未来があったのはいつだったか

夕陽に輝く河川を背景に
別れを惜しむ真琴と千昭を観ながら
そのことが思い出せないのです


□夏が映っている

夏の大きな白い雲が
真琴たちを見下ろすように
スクリーンいっぱいに映される

そのとき胸がしめつけられます

人物たちの感動的なセリフではなく
無言の背景が映ったときにたまらなく感動する

それは真琴や千昭ら人間たちが
相対化されるからだと思います

夏の白い雲
夕陽を反射する川面
無人の教室とグランド

ふだん自分では気づいていないけれど
人間はこういう大きく不動の世界で生きている

悔やんでも戻ることのできない不可逆な世界を
小さな存在でありながらひたすら走って生きている

夏の大きな白い雲は人間たちの
はかなさや健気さのようなものを際立たせます

二度と巡って来ない時間の美しさと残酷さ

この映画には
奇跡のように夏が映っています


#時をかける少女 #細田守 #仲里依紗 #サマーウォーズ #スタジオ地図 #奥寺佐渡子 #映画館が好きな人と繋がりたい #映画 #映画好きな人と繋がりたい #奥華子 #ガーネット #変わらないもの