映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

ドラマ「舞妓さんちのまかないさん」 舞台にあがる子、舞台から降りる子


□「舞妓さんちのまかないさん」(全9話) 
NETFLIXで配信中

是枝裕和が総合演出・監督・脚本を務める。
撮影に近藤龍人など映画界屈指のスタッフが集結。

本作は料理が重要なモチーフ。
かもめ食堂」「南極料理人」の飯島奈美がフードスタイリストを担当。

出演は森七菜、出口夏希蒔田彩珠、城桧吏、福地桃子、若柳琴子、南琴奈、リリー・フランキー北村有起哉尾美としのり古舘寛治戸田恵子白石加代子松坂慶子橋本愛松岡茉優井浦新常盤貴子

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□居場所を見つけた人
舞妓になることを夢見て青森から京都にやってきたキヨ(森七菜)とすみれ(出口夏希)。

見習いとして”屋形”での集団生活と舞妓修行がはじまる。

しかしキヨには見込みがなく青森へ帰るように促される。

対照的にすみれは「百年に一人の逸材」として周囲の期待が高まっていく。

華やかな舞妓の世界から降りたキヨだが、祖母から教わった料理の腕を見込まれて屋形専属のまかないとして働くことになる。

京都の街並み、軽快な京ことば、季節の風物詩。

割烹着姿で手拭いを頭に巻いたキヨ。
丹精込めて食事を作り、すみれの成功を願う。
親子丼を美味しそうに食べる舞妓たちを見つめる。

窓から光の差し込む台所。
舞台にあがる子、舞台を降りた子。
”居場所”を見つけた人たちの顔は煌めいている。

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□善いほうの本能
是枝監督「ベイビーブローカー」のパンフレットに脚本家の安達奈緒子さんが文章を寄せています。

「人間が生物である限り、どんなに文明や英知が成熟しても、極限の不安状態では相も変わらず、人間はどこまでも残虐に成り得るという現実を突きつけられる日々です。そんな絶望の空気の中で、残虐性とは真逆の、もうひとつの、人間の『善いほうの本能』を見せてくれているように思います。」

ドラマを観ていて、この文章を思い出しました。

裏方にまわってもすみれを思うキヨ
期待に応えようと自分に厳しいすみれ
若いふたりから初心を思い出す大人たち
実らない片想いを胸に日常を生きる健気さ

この作品には美しいものしか映っていません。

作為的な美しさではなく、製作陣がていねいに探して提示してくれた美しさです。

それは、やはりていねいな脚本を書く安達さんが言うところの、「人間の善い方の本能」という言葉に置き換えてもいいのかもしれません。

私たちが生きている日常にこそ尊さがあるのだと、このドラマのチームは教えてくれます。



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