映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「あつい胸さわぎ」 胸を張って大丈夫

□「あつい胸さわぎ」(2023年1月公開) 

監督・まつむらしんご、
脚本は「凶悪」「朝が来る」の高橋泉

オリジナルは2019年発表の同名舞台。
昭子役の枝元萌氏は読売演劇大賞優秀女優賞。

”若年性乳がん”をテーマとしているが
いわゆる闘病ものではなく
病気の人間を聖なるものとして描いていない。

病だから世界が味方してくれるわけではないし
崇高で謙虚に生きるようになれるわけではない。
本作はそういう軸で一貫させている。

ゆえに女性でなくても、病とは無縁であっても、

人物の心情に付き添って観られる映画としてつくられている。

メインの母娘役に吉田三月喜と常盤貴子
ほかに奥平大兼、前田敦子、三浦誠己、佐藤緋美


□胸を張って大丈夫

大学生の千夏は日差し注ぐ港ちかくで母と暮らす。
関西弁の丁々発止で漫才のような会話が弾む。

大学では小説を学び、恋人はいたことがなく
幼馴染の光輝(奥平大兼)に想いを寄せる。

そんな千夏に”若年性乳がん”という
診察結果が伝えられる。

"私の胸は誰にもさわられることなく
なくなってしまうのか" 

突如、世界の見え方が変わる。

光輝を思ってもただ切なく、
母の気遣いも疎ましく感じる。

特に病がなければ表面化しなかったであろう
親離れ/子離れの葛藤に力点を置いている。

母への愛憎が交錯して千夏は小説に
”私の胸は母に食いちぎられようとしている”
という痛烈な一文を記す。

昭子も自分と向き合う日々を送る。 
千夏ではなく自分が乳がんであったらと。
そして今まで娘に拘泥しすぎた自分を
認めようとする。

変わろうとする。


□あんたおっぱいさわったことあるの

この作品でもうひとり重要な人物がいる。

崇(佐藤緋美)という同級生である。
彼は発達障害のようで千夏たちは決して嫌っては
いないが無意識に憐憫の目を向けている。

しかし千夏は病に思い悩むあまり崇に
「お前はバカだから」とひどい悪態をつく。

千夏は悔いて崇に謝るのだが、
それをきっかけに千夏の心は浮上する。
崇にあやまり、感謝し、エールをおくる。
それがいつしか自分へのエールになっていた。

千夏が「あんたおっぱいさわったことあるの」
と訊いたときの崇による最強の返しに
ぜひ刮目いただきたい。

千夏にも崇にも日常は続くはず
なのに陽光に照らされたふたりの
輝きしか目に入らない幕切れだった。

ーーー

最近絶好調の前田敦子や三浦誠己も好演。
私ごとですがおっぱいがなくても大丈夫です。


#映画好きな人と繋がりたい #映画館が好きな人と繋がりたい #映画#あつい胸さわぎ #常盤貴子 #前田敦子 #奥平大兼 #三浦誠己 #吉田美月喜 #佐藤緋美