映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「ヘアー」(午前十時の映画祭) そして髪を切った

午前10時の映画祭にて再上映(町山智浩氏の解説あり)

「ヘアー」 1979年 監督:ミロス・フォアマン

カッコーの巣の上で」や「アマデウス」のミロス・フォアマンは、チェコスロヴァキア出身でアメリカに移住した映画監督。

本作は1968年上演のブロードウェイミュージカルが原作。

ベトナム戦争に徴兵された青年と徴兵を拒否したヒッピー。彼らの生きざまや主張を挑発的なロックで表現し、のちのミュージカル作品にも影響を与えた。

映画公開当時、「ヒッピーたちの描き方が反戦とは無関係でただ奔放なだけ」と指摘され、原作の本質が描かれていないという批評もあった。

1979年公開ということは、原作上演から11年経ち、ベトナム戦争も終わっていた。しかしコッポラの「地獄の黙示録」もそうだが、製作陣がなぜこの映画を世に出したかったのか。そのことについては思いを馳せたい。

最後の場面。平和を訴える大観衆がホワイトハウスを取り囲み抗議行動をする。しかし現実においてもこの若者たちの行動は、政府の戦争終結にはつながらなかった。

あの頃の若者たちが実現したかった社会。そして挫折。長い髪を切ったこと。その痛みはどこに捨てたのか。

狂騒のような映画を観たはずだが、むしろ寂寥のような思いで席を立った。

劇場には杖を突くような年配の方もいた。ゆっくりとした歩みで出口に向かう。後ろ姿、薄くなった髪。あのころあなたも髪を伸ばしていたの。

#ヘアー
#午前10時の映画祭
#町山智浩
#ベトナム戦争
#ミロスフォアマン
#柴田翔
#されどわれらが日々