映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「ユリイカ(EUREKA)」 生きろとはいわん、死なんでくれ

□『ユリイカ(EUREKA)』

福岡コ・クリエイティブ国際映画祭にて再上映。

昨年3月21日に57歳で亡くなった青山真治監督の2001年公開作品。

カンヌで国際批評家連盟賞とエキュメニック賞を受賞。ノベライズでは三島由紀夫賞を受賞。

今回の上映日も3月21日。
青山監督は福岡県北九州市の出身

撮影後、同じ西鉄バスでバスジャック事件が起きる。

出演
 役所広司 宮崎あおい 宮崎将 光石研 利重剛 
 国生さゆり 塩見三省 松重豊 尾野真千子

□苦しいが必要な映画

バスジャック事件で生き残った運転手(役所広司)とふたりの兄妹(宮崎将宮崎あおい)。

生き残ったことに苦しむ男。

「生き残ったんが、そげん悪かとか」

そして発語しなくなった幼い兄妹。
家族は崩壊し、ふたりだけの暮らし。
妹はバスジャック犯にレイプされたという風評。

北九州地方の茫漠たる大地。
217分にわたる全編セピア色の映画。

観客として太刀打ちできるはずもないものに挑む。

愉快な映画ではない。
理解できるなどと言える映画ではない。
苦しいが必要な映画だと強く思う。

□治癒されなくとも

唐突に起きるバスジャック事件。

その乾いた衝撃的な描写は、まるで私たち観客も事件当事者のような気分になる。

理不尽に死んだ乗客と犯人。
理不尽に死ななかった3人と私たち観客。

私たちには時間が必要なのだ。
心を取り戻すには遠回りが必要なのだ。

黙り込み、失踪し、妻を捨て、床を叩き、死者の墓をつくることが必要なのだ。

人を殺す誘惑にかられ、事件現場に戻り、世間から遊離することが必要なのだ。

言葉では治癒しない。
言葉にした瞬間に何かが零れ落ちる。

整ったストーリーでは真実を語れない。

観客は語らない3人と217分の旅するしかない。

退屈かと問われれば退屈だが、この映画に至っては退屈さえ意味があるのだ。

「時間のかかっとですよ。自分らのやり方、見つくっとに。あん子らも俺も。その間、ほたっとってくれんですか」

話せない代わりにコツコツと壁を叩いていた宮崎あおいが言葉を取り戻し画面に色が灯る。

しかし役所広司は変わらず咳をしていて、死の予感が拭えない。

私たちは決定的には治癒されないし、どこへも行けないと確信する。

「生きろとはいわん、死なんでくれ」という役所広司が発した言葉の意味を考え続ける。


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