映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「エンパイア・オブ・ライト」 溶け合う光と闇


□『エンパイア・オブ・ライト』(Empire of Light)

脚本・監督 サム・メンデス
 『アメリカン・ビューティー
 『007スカイフォール
 『1917 命をかけた伝令』
 演劇界でもロイヤルシェイクスピアカンパニー
 などで成果をあげている。

大きなドラマがあるわけでなく
映画館で働く中年女性と黒人青年の
心の移り変わりを追っているだけなのに
ずっと観ていられるような気がしました。

それは光と影が溶け合うこの作品が、
私たち人間の正体に近いところを
描写しているからではないかと感じました。

映像に酔いしれる本作は 
発表を控えるアカデミー賞で撮影賞のノミネート。

出演
 オリヴィア・コールマン
 マイケル・ウォード
 コリン・ファース
 トビー・ジョーンズ

□幸せと失意の調和

どちらか一方ではなく、
光と闇の両方が溶け合っている。

1980年代、イギリス。
海辺にたたずむ映画館エンパイア劇場。

オリヴィア・コールマン演じる
劇場マネージャーのヒラリー。
彼女には聡明さがあり、
同時に少し精神を病んでいる。

そこに黒人青年スティーブンがやってくる。

ふたりは切実に惹かれ合っているようであり、
傷ついた同士の慰め合いのようでもある。
ここでも単色に染まらないような関係がある。

映画館でかかるのは『ブルース・ブラザース
や『レイジング・ブル』。

フィルムは静止画が光に照らされると
人間の目には画が動いているように見える。
同時に24コマの間には黒い部分があり
我々の目はいつも闇を見ている。

本作も人間の光と闇を同時に見せる。
希望の物語ではない。
絶望の物語でもない。

小さな幸せと確かな失意が調和している映画だ。

□不寛容の社会でも

心の落ち込みに悩んでいたヒラリーは
ティーブンと出会い
笑顔で香水を選ぶような日が訪れる。

一方で楽しかった海でのデートなのに
怒りにまかせて砂の城を壊すようなことをする。
「男たちはいつも命令してくる!」

ヒラリーは病んでいる。
しかし病んでいない人間などいるのだろうか。
構うものか。
聡明さと狂気の両方を手にして我々は生きよう。

エンパイア劇場は
古き良きイギリスを象徴しているが、
そこにレイシズムが乱入して暴力をふるう。

昔も今も、
個人も社会も、
光と闇とともにある。

この映画はそれを声高に叫びはしないが、
綾を成す映像で教えてくれる。

劇場の撮影技師がヒラリーのために
ひとつの作品を選んでスクリーンに映し出す。
映写室からの青い光に舞う埃。

洋画、邦画、ロマンス、アクション、サスペンス、
アニメ、古典、SF、ドキュメント、ホラー...

映画館では今もさまざまな映画がかかっている。

不寛容の社会であっても映画が好きな人たちは
一方の側だけに与するのでなく
きっと寛容であろうと努めるはずだ。

そう信じている。

 


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