映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「逆転のトライアングル」 皮肉に見せかけた現実


□『逆転のトライアングル』(2023年2月公開)

この強烈なパルムドール受賞作は3部構成。
メインキャストは男性モデルのカール。

彼には
”TRIANGLE OF SADNESS”(眉間の皺)がある。

男性モデルの賃金は女性の三分の一で、
外見以外には興味を持たれず、
性的搾取の対象となることもある。

インフルエンサーのヤヤとは
ビジネスカップルのような関係しか築けていない。

1部では階級社会の縮図のようなファッションショーで末席に追いやられた。

2部の豪華船ではいつも蠅にたかられていた。

3部の無人島ではクッキーのためカラダを売った。

カールの”SADNESS”は眉間からとれなかった。

映画は傷だらけのカールが
疾走するラストショットで幕を閉じる。

彼は何かに向かって全力で走ったのだろうか。
もしくは何かから逃げ出したのだろうか。

何かと言っても
”階級社会”や”格差社会”以外はないのだけれど、
乗り込んだら降りられない船のように
この社会の出口をもう何年も
世界中が探しているが見つからない。


□世界のグリストラップ 

ウッディ・ハレルソン演じる豪華船の船長は
酔いどれて船長室から出てこない。

部屋からは「インターナショナル」が聞こえる。

起て飢えたる者よ 今ぞ日は近し
醒めよ我が同胞(はらから) 暁(あかつき)は来ぬ
暴虐の鎖 断つ日 旗は血に燃えて
海を隔てつ我等 腕(かいな)結びゆく
いざ闘わん いざ 奮い立て いざ
あぁ インターナショナル 我等がもの

労働歌・革命歌であり、かつてソ連の国歌だった。
資本主義の権化のようなクルーズ船の船長が
「飢えたる者よ、奮い立て」と
分配経済を標榜するという諧謔

そんな風にみんなクレイジーなことになっている。

ロレックスをしたアンチ社会主義のロシア人。
自分の会社で売った武器を投げ込まれる英国夫婦。
善意の押しつけで船を沈ます金持ちおばさん。
食えないパスタをSNSにあげるインフルエンサー

世界の美しさを描き
気持ちよく帰してくれる映画もあるが、
ちょっと待てお前世界のグリストラップも
見て帰れというのがこの映画だ。


□「今こそ愛を」

ブラックコメディというけれど
誰が誰を笑えばいいのだろうか。

世界人口における年間所得
 上位10%の平均所得: 1233万円
 中間40%の平均所得: 233万円
 下位50%の平均所得: 39万円
          (World Inequality Lab)

富裕層が転落する姿を強烈に皮肉った本作だが
この映画の実際の観客は格差における上位層だ。
世界の多くを占める年間所得39万円の人は
きっと観ることは困難だろう。

船上で寝転ぶ醜悪なほど滑稽な金持ちは
どちらかというと私たちなのだ。

カンヌでのパルムドールは祝福したい。

しかしセレブがハイブランドを身に纏い
カーペットを練り歩くのが映画祭だ。
パーティもショーもライブもDJプレイもある。

本作の豪華客船での頽廃と何が違うのか。

金持ちがカンヌに集まり、
金持ちを揶揄した映画に最高賞を与える。

本作冒頭のファッションショーの場面。
「人はみな平等」
「今こそ行動を起こせ」
というテロップが会場に映し出された。

「今こそ愛を」というテロップは
豪華客船や時計の針のように
右に傾いて沈んでいった。

ブラックコメディというけれど
いつまでも笑っていていいのだろうか。



#映画好きな人と繋がりたい #映画館が好きな人と繋がりたい #映画 #逆転のトライアングル #triangleofsadness #リューベンオストルンド