映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「すべてうまくいきますように」 ギュッてしてチュッてして扉バタン

□「すべてうまくいきますように」(2023年2月公開) 

監督は「グレース・オブ・ゴッド」でベルリン映画祭銀熊賞に輝いたフランソワ・オゾン

オゾンの友人でもあった脚本家による同名小説が原作。

この小説の映画化をオゾンは断っていたが、近しい人を亡くすような経験もあり今ならばと映画化を判断したという。

出演
 ソフィー・マルソー(長女 エマニュエル)
 アンドレ・デュソリエ(父 アンドレ
 シャーロット・ランプリング(母 クロード)
 ジュラルディーヌ・ぺラス(次女 パスカル
 エリック・カラヴァカ(エマニュエルの夫)

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安楽死とはなにか

概念では誰もが知る安楽死だが
映画では具体的な方法が描かれる。

死は実に事務的だ。

フランス国内では禁じられている
スイスの尊厳死協会と煩雑な手続き
大金が必要
自殺ほう助とならないように
本人意思のエビデンス
宗教観をのりこえる
スイスには本人だけで行く
協会立会いのもと自分で薬を飲んで死ぬ
救急車を手配して国境を超える
さいごのお別れは車内で速やかに
スイスから完了電話

と、泣いているヒマはない。

特に印象的なのは最後の別れだ。
路駐している救急車でありがとうと言って
ギュッてしてチュッてして扉バタン。
抒情も余韻もありはしない。

だが、それでもいい。

人生を愛しているからこそ
この死を選んだのだ。

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□ソフィー、ソフィー

娘のエマニュエルが父から死の手伝いを頼まれる。

映画の語り口はとてもシンプルで
気負ったギミックはない。
そのあまりの率直さに
安心して映画に身を委ねることができる。

死に直面しているのは父だが
この作品の”主語”はエマニュエルだ。

エマニュエルが父が倒れたとの電話を
取るところから映画ははじまるし
家を飛び出した彼女がコンタクトを取りに
戻る様子までキャメラはあえてとらえている。

「終わらせてほしい」と父が死を懇願した時も
それを言われたエマニュエルの表情が映される。

これはエマニュエルの物語であり
少しでもソフィー・マルソー
思い入れのある観客なら
彼女とともに親しい人の死を考える映画となる。

特に”ソフィー・マルソー”であることが
ポイントなのではないか。

みんなが知っている愛くるしかった
ソフィー・マルソー

彼女も老いにさしかかり
父の死と尊厳に向き合っている。

そのことに観客は共鳴し
我がことのように感じてしまう。

彼女のインタビュー動画を見ると
今回演じたエマニュエルがソフィー自身と
乖離がないとつくづく感じる。

エマニュエル=ソフィーという気がしてくる。

コンタクトとメガネが手放せず
ボクシングとジムで鍛えても体は少しずつ緩み
目元はいまもキュートだが疲れていて
首元に巻いた青いストールがよく似合い
瞳と口角だけで笑うのは健気で
ゴア描写のホラー映画をソファで寝転んで見ている

そんなソフィーとともに観客は歩む。

監督のオゾンは言う。  

「この映画にメッセージはない。
できれば考える機会としてほしい。
身近な人が倒れたらどうするか。

安楽死はお金がないと選べない制度でもある。
医療、国、法律の支援もいる。
そういうことも含めて考えるきっかけになってほしい。」

死を扱っている映画であるが
ソフィーがあまりに人間味あふれて美しいから
鑑賞後はいい気分でしかない。
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そしてやはり感じる。
フランスの人たちの自由と孤高。
風のように生きている。
誰のためでもなく自分のために生きている気高さ。
どっかでよく見る忖度なんてこの街では…
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あまりにソフィー、ソフィーと贔屓したので
彼女が99年に悪役を演じた画像を添えておきます。



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