映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「生きててごめんなさい」 共依存の均衡に立つふたり

 


□「生きててごめんなさい」(2023年2月公開)
 
#余命10年」「#新聞記者」「#ヤクザと家族」の
藤井道人によるプロデュース。

#アバランチ」で藤井氏と演出を務めてきた山口健人が監督を務める。「静かなるドン」の劇場公開を控える。

「生きててごめんなさい」は、穂志もえか演じる莉奈のSNSアカウント”イキゴメ”に由来する。

出演
 黒羽麻璃央 舞台「刀剣乱舞」「エリザベート」
 穂志もえか 「窓辺にて」「街の上で」
 松井玲奈 「よだかの片想い」

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□帰りにたこ焼き買ってきて

小説家を夢見ながらも
職場で忙殺される修一(黒羽麻璃央)。

バイトをクビになってばかりで
社会に適応できない莉奈(穂志もえか)。

修一が訪れた居酒屋で莉奈は
客を怒らせパニックになる。

修一はそんな莉奈をなぐさめ
一緒に帰ってふたりの暮らしがはじまる。

日がな一日部屋で過ごしている莉奈。

修一に後ろから抱きついたり
たこ焼き買ってとねだったり
泣いて怒って地団駄を踏んだり
まるで子犬のようだ。

修一はそんな莉奈が愛おしい。

しかし莉奈が仕事を始めると
関係は変わっていく。

”修一はなんでわたしを応援してくれないの”

”オレがさ、毎日毎日したくもない
仕事してたとき一体何してた”

狭くとも居心地のいい部屋に
あたたかな時間が流れていた。

けれどふたりは
そこにとどまることはできない。
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□細く白い肩

修一のもとを去ると決めた莉奈は
高台から暮らした街を眺めている。

そのとき彼女のパーカーがハラリと落ちて
細く白い肩があらわになった。

夢だか、愛だかが落ちる音がした。
修一はそれを見つめていた。

冒頭の場面、修一が莉奈を「おぶって」
連れ帰ることに違和感があった。

いくらなんでもそれは変だろうと。

しかしその後の展開で莉奈は
捨て置かれた小犬を抱いて部屋に帰って来た。

修一と別れたあとも犬を育てる様子が描かれる。

そうか、修一も小さな犬を抱いてくるように
莉奈をおぶって連れてきたのか。

やがてというか、やはりというか、
ふたりの”共依存”の均衡は破られる。

つき合ったのはかわいそうだったから。
修一が思わず口にした言葉が
真実に聞こえてしまう。

ふたりの関係は客席から見ていると
不安定でどこか歪んでいてもどかしかった。

しかし愛や夢を抱く当事者は
他者の理解など求めないだろう。

わかってくれなくていい。
自分たちさえわかっていればいい。
作品はふたりのそういう季節を描いている。

そう考えるとよく言う”共感”なんてものは
愛と夢がその腕から消えてしまった者が
手持ちぶさたで欲しがるのかもしれない。

主演のふたりがあまりに美しく
かつ設定がやや類型的に思えたので
リアリティとは一定の距離を感じ
男女の寓話として鑑賞した。

この作品が描く痛みのチャネルが合う人は
相当心に突き刺さるものがあるだろう。

 



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