映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「中森明菜イースト・ライヴ インデックス23 劇場用 4K デジタルリマスター版」 眩しいデコルテが切ない


□『中森明菜イースト・ライヴ インデックス23 劇場用 4K デジタルリマスター版』

映画館でのライヴ映像は好きだ。

本物のライヴは立っているのが疲れるし、手拍子が自分だけ合わないし、周りの熱狂に気圧される。

それに比べて映画館のライヴはいい。

顔もよく見えるし、歌声もはっきり聞こえるし、気が向いたら体を揺すっていればいいし、涙を流してもいい。

「難破船」では中森明菜と同じタイミングで涙が落ちた。

曲の間奏であんなに哀しく美しい顔をする人を他に知らない。


□笑顔の歌をもらえない歌姫

1989年によみうりランドの野外ステージで行われた8周年ライヴ。

風で彼女の長い髪が流れる。
日が暮れていく。
スカートが舞う。

野外のライヴっていいものだ。

それにしても彼女には笑顔で歌う歌がない。

不甲斐ない男に怒っているか、実らない恋に哀しんでいるかの歌しかない。

だから歌のあいだ彼女の表情はいつも翳りのなかにある。

そして間奏のときだけにっこり笑う。
その笑顔に胸が締めつけられる。

最前列の観客に「寒くない?」と語りかけているのが口の動きでわかる。

また翳りのある表情に戻り歌いだす。

□絶望とシンクロする

抱きあげてつれてって 時間ごと
どこかへ運んでほしい
せつなさのスピードは高まって
とまどうばかりの私
 「セカンドラブ」(作詞:来生えつこ

おろかだよと笑われても
あなたを追いかけ抱きしめたい
つむじ風に身をまかせて
あなたを海に沈めたい
 「難破船」(作詞:加藤登紀子

同期のキョンキョンが、「難破船」のときの明菜ちゃんは怖いくらいで見ていられなかったと語っているのを聞いたことがある。

中森明菜は歌声に表情がある。
いやこんな表現では足りない。

中森明菜は歌詞の絶望に自分をシンクロさせて歌うから、歌うほどに彼女は滅んでいくように見える。

でもだから絶望を歌うことができる。

華やかな衣裳でデコルテが眩しいのが、なんだか余計に切ない。


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