映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

ドラマ「サギデカ」 人を殺さない詐欺という犯罪はやむを得ない

□「サギデカ」(全5話) 

NHKオンデマンド、UーNEXTで視聴可能。
2019年に放送され令和元年度文化庁芸術祭賞受賞。

「 #100万回言えばよかった 」「 #きのう何食べた? 」「 #おかりモネ 」「 #透明なゆりかご 」の安達奈緒子によるオリジナル脚本。

特殊詐欺犯罪。
「かけ子」「受け子」に罪を背負わせ、トップの実体がわからないという組織構造。

捜査二課の今宮(木村文乃)は、トップの逮捕に異常なこだわりを見せる。

2023年1月現在、被害額35億円と言われる特殊詐欺の容疑者がフィリピンの入管施設に潜伏していると報じられている。

2019年のドラマであるが、製作陣が伝えたかったものは褪せていない。

なぜ特殊詐欺は存在し、これだけ注意喚起してもなくならないのか。そして詐欺は命や尊厳をも奪っていく。

出演は木村文乃高杉真宙眞島秀和清水尋也足立梨花遠藤憲一鶴見辰吾、玉置玲央、長塚圭史田中泯青木崇高香川京子ほか

□詐欺は社会の役に立っている

本作は”刑事ドラマ”という枠におさまらない。
特殊詐欺に翻弄される人間の寄る辺なさが描かれる。

ドラマ前半は、被害者やかけ子の境涯に力点が置かれている。

被害者とかけ子は対立する関係であるが、弱い立場に追いやられているという共通点がある。

かけ子の加治(高杉真宙)は、振り込め詐欺を悪だとは思わないと強弁する。

”富裕層の金を再分配している”
”努力が報われない社会だからやむを得ない”

ドラマ中盤は、今宮がなぜ詐欺事件に異常にこだわるのか、生い立ちが明かされていく。

やがて「人を傷つけない」はずの詐欺は、強盗にエスカレートしていく。

また被害者は騙された自分を責め自ら命を断つ。

これは今現実でも起きていることだ。

今宮は警察の”組織の論理”に縛られながら、なお憑りつかれたように捜査を続ける。

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□大きな目的のためにいささかの不正は許されるか

ドラマ、終盤。

特殊詐欺が発生した背景や犯行グループが拠点を海外にした経緯が描かれる。

今宮は特殊詐欺組織のブレーンと対峙する。

”社会から犯罪は消滅しないが、金さえ回れば凶悪犯罪は減る”

”人を殺さない詐欺という犯罪はやむを得ない”

特殊詐欺のスキームをつくったこの男は、時代・再分配・不公平が根底にあると静かな目で語る。

今宮は被害に遭った人たちの顔を思い出す。
ひとりひとりのささやかな人生を守りたい。

男はさらに言う。
ひとりひとりに共感していたら何もできない。
犠牲になる人はどうしても存在してしまう。
全体を救うことを考えるのが正解ではないか。

今宮はこの世界観にどう回答するのか。
いや、安達奈緒子やドラマ製作陣はどう回答するのか。

特殊詐欺をモチーフとして大きな命題に渾身で挑んだ作品である。


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