映画館に帰ります。

暗がりで身を沈めてスクリーンを見つめること。何かを考えたり、何も考えなかったり、何かを思い出したり、途中でトイレに行ったり。現実を生きるために映画館はいつもミカタでいてくれます。作品内容の一部にふれることもあります。みなさんの映画を観たご感想も楽しみにしております。

映画「中森明菜イースト・ライヴ インデックス23 劇場用 4K デジタルリマスター版」 眩しいデコルテが切ない

□『中森明菜イースト・ライヴ インデックス23 劇場用 4K デジタルリマスター版』映画館でのライヴ映像は好きだ。本物のライヴは立っているのが疲れるし、手拍子が自分だけ合わないし、周りの熱狂に気圧される。それに比べて映画館のライヴはいい。顔もよく見…

映画「レッド・ロケット」 コメディーだったんだろうか

□石油コンビナートタンクトップ姿でスマホだけ持ってテキサスに帰って来た元ポルノ俳優のマイキー。別居中の妻の実家に転がり込んで、意味のないことをご陽気にまくし立てる。 俺はAV界のアカデミー賞にノミネートされたぜ 大勢のフォローワーがいるんだ …

映画「ヴィレッジ」 映画は自由であるべきだ

□河村光庸(カワムラミツノブ)彼は2022年6月に亡くなりました。『妖怪の孫』を観に行ったとき、制作が「スターサンズ」であることに驚いたんです。こういう命がけな政治ドキュメンタリー映画は、もっと無名の会社で制作されるイメージがありました。それが…

映画「みんなのヴァカンス」 AIも称賛、特に夏の妖精を

□『みんなのヴァカンス』脚本・監督 ギヨーム・ブラック日本では2022年8月公開。キノシネマ天神にてリクエスト特集で再上映。昨年公開なのでレビューは出揃っている。これがすごい。「最高」「共感」「すごく笑った」「多幸感」 「テンポ編集」「風景美」「…

映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」 いつも、どこでも、ぜんぶ一度にしたい=頻尿という世界線

□同時代の切実な瞬間本年の映画賞を席巻したということは、同時代性を激しく内包している映画ということだ。賞というのは皮肉なもので、賞をもらったばかりにのちの世で罵られたりする。「なんでこんなのがアカデミー賞なんだよ」これは芥川賞でも、レコード…

映画「AIR エア」 ソニーは30歩でNo way

□何もせずに金だけ儲けて女はタダ不思議だ。男たちが不可能を可能にしようとする痛快な作品。楽しいのだが、同時に虚しい気分に覆われる。同じような気分に囚われた方はいるのだろうか。念のため2回観たが、やはり楽しさと虚しさを二つながら感じることは変…

映画「ノック 終末の訪問者」 理解してしまっている

□『ノック 終末の訪問者』M.ナイト・シャマラン監督最新作。優しい顔した4人がキャビンをノックする。「あなたたち家族が犠牲になって世界の終末を救ってくれ」ごめんねとか、傷つけたくないんだとか言いながら、人類のためにお願いと。むかし、日曜日に子…

映画「トリとロキタ」 ロキター!

□『トリとロキタ』移民・難民の映画は観ようと思っている。そんなことが何になるのか。そんなことして世界からイジメを受けているような移民・難民の役に立つのか。『牛久』『マイスモールランド』『世界は僕らに気づかない』 『ブルー・バイユー』その映画…

映画「ジュラシック・パーク」 無邪気で邪悪なフィルムメーカー

□『ジュラシック・パーク』(監督スティーブン・スピルバーグ)『午前10時の映画祭13』でスクリーン上映。1993年公開の大ヒット作品をはじめて鑑賞。笑っちゃった。スピルバーグってやっぱり変態だなって。とにかくみんなのことを驚かせたい!そんないたずら…

映画「ロスト・イン・トランスレーション」 寄る辺なき存在とわかるまで

□『ロスト・イン・トランスレーション』⁡2003年公開作品。脚本・監督はソフィア・コッポラ。ソフィア・コッポラとユニクロのコラボTシャツ販売を記念しての再上映。アカデミー賞主要4部門にノミネートされ、脚本賞を受賞。全編東京を舞台としているが、監督…

映画「14歳の栞」 いびつな美しい桜たち

□『14歳の栞』2022年3月公開作品が、渋谷パルコなどで全国順次再上映。 1年ぶりの鑑賞で2年6組の35人と再会する。誤解を恐れずに言うならば、何も起きない中学2年生たちの風景。しかし彼らの内部は激しくうごめいている。一般の生徒たちを長期撮影したドキュ…

映画「わたしの見ている世界が全て」 この新星どこまで輝く

□『わたしの見ている世界が全て』脚本・監督 佐近圭太郎主演 森田想制作・配給 Tokyo New Cinemaマドリード国際映画祭主演女優賞公開は13館と小さいが「見つけた」という新星。幸運にも近くで公開していて、派手さがなくても大丈夫という方はご覧ください。…

映画「妖怪の孫」 ガンガン刺激される

□『妖怪の孫』って...安倍晋三氏の本質に迫ろうとする取材。米国人記者や右翼の一水会の見解も盛り込まれ、好奇心をガンガン刺激された。青木理の著書『安倍三代』も読んでいたが、こちらと同様に歴代最長総理の考察としてすぐれた内容。予告で『妖怪の孫』…

映画「Single8」 こうして映画監督になる

□『Single8』平成ウルトラマンシリーズを手掛ける小中和哉監督の自伝的作品。『スターウォーズ』に魅せられた1978年の夏。文化祭の出し物である8ミリ映画作り。ヒロインはクラスの女の子。映画製作は彼女に思いを伝えるためでもあった。でも残ったのは映画の…

映画「ユリイカ(EUREKA)」 生きろとはいわん、死なんでくれ

□『ユリイカ(EUREKA)』福岡コ・クリエイティブ国際映画祭にて再上映。昨年3月21日に57歳で亡くなった青山真治監督の2001年公開作品。カンヌで国際批評家連盟賞とエキュメニック賞を受賞。ノベライズでは三島由紀夫賞を受賞。今回の上映日も3月21日。青山監督…

映画「ロストケア」 苛立ちはどこから

□答えを出すべきでない問いがある戸田菜穂が演じた親の介護に疲れ切った娘。彼女が傍聴席から松山ケンイチに「人殺し、人殺し」と絶叫したときの獣のような咆哮。介護で限界になっていたが、それでも親が殺され猛り狂った。親の介護を続けていたら、戸田菜穂…

映画「ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー」 魂の救済

□最も劣った人間だと思った日 楽しいのです。これだから映画は楽しいのです。 上映中、終始ケタケタと脱力して笑っていることが幸せでした。 「え、もう終わり?」と本気のバカ面してた自分が可笑しかったです。 魂を救済してくれた映画ってなんですか? 『…

映画『ベイビー・ブローカー』 水の存在

□第1回福岡コ・クリエイティブ映画祭a.NAKASU⁡⁡3月19日に福岡で開かれた映画祭で是枝裕和監督を迎えてのオープニング上映。⁡⁡□観覧車のシーン⁡⁡2022年の封切り以来の鑑賞であったが、やはり観覧車のシーンの美しさは息を止めて見入ってしまう。⁡⁡⁡それはマジ…

映画「オットーという男」 親切さや寛容さがあるのも事実

□死ねなくなってしまったトム・ハンクス演じるオットーが世を儚んだのは、妻を亡くしたからか。たぶんそうなんだけれど、それだと妻や愛を持たない自分はさっぱり理解ができない。だからオットーが死にたいのは「世界は生きるに値しないと呆れたから」という…

映画「少女は卒業しない」 あなたのおかげなんだよ

□瞳の黒に潤んだ絶望茶色いモザイク模様の床にイスが引きずられる音がすると、一瞬にして高校生の自分に引き戻されてしまう。否応なしに世界のすべてだった息苦しくて甘やかな学校。.3日連続で映画館に通い3回鑑賞した。高校生たちの物語だというのに、自…

映画「Winny」 開発は自分の表現なんです

□『Winny』(2023年3月公開)監督・脚本 松本優作出演 東出昌大 三浦貴大これは興味深い。「ナイフをつくった者は罪なのか」使う側の倫理ではなく、開発者の性を罰する国家。開発意欲のない国にしないために闘った人たち。このテーマをじっくり考えた経験は…

映画「ひとりぼっちじゃない」アナ・デ・アリマス

□つまらない私ある作品を「つまらなかった」と言い捨てるのはカンタンです。しかし「おもしろかった」という方もきっといらっしゃるわけです。だからつまらないのは作品ではなく、私という人間ではないかという疑念が生じます。馬場ふみかと河合優実と井口理…

映画「フェイブルマンズ」 映画と契約した男

□母の業サミー少年すなわちスピルバーグ少年は、家族のキャンプを撮影をした。その素材を編集して映画をつくる。監督というのは、ひとつの素材から複数の作品をつくることもできる。このときの1本は「大好きなママ」。もう1本は「恋するママ」。世界的監督…

映画「イチケイのカラス」 そんなの映画じゃねえ

□私は疲れていたんです私は罪悪感いっぱいで劇場に向かった。先日初対面の人に映画が好きですと伝えたところ「私も好きです、昨日も行きました」と返ってきた。なんてステキな出会いだと思い、何を観たか尋ねた。「『イチケイのカラス』です」…それ映画じゃ…

映画「劇場版センキョナンデス」 タミガシュナンデス

□『劇場版センキョナンデス』(2023年2月より順次公開)別の映画を観に行った時、ロビーに人が溢れていて、隣のスクリーンに補助席用のパイプイスが運ばれていった。この活気は本作の舞台挨拶のせいだった。プチ鹿島氏は新聞14紙を読み比べる時事芸人で弁舌…

映画「茶飲友達」 家族と孤独という妄執

□『茶飲友達』(2023年2月より順次公開)渋谷ユーロスペース1館ではじまった本作は、50以上の劇場公開へと拡大している。福岡出身の外山文治監督の舞台挨拶があった地元上映は満席。小説家になりたかったことや、天神のレンタルビデオでバイトしていたエピソ…

映画「『生きる』大川小学校津波裁判を闘った人たち」 生き残った者の生き方

□大川小の3.11 わが子が見つかったとき、その体は砂にまみれていた。目をなめて砂をぬぐい、鼻の砂も吸って取り除いた。砂まみれの体をなんとかしてやることしかもう親にできることはなかった。石巻市立大川小学校の生徒は約1分でたどり着く校舎裏の山へ避難…

映画「逆転のトライアングル」 皮肉に見せかけた現実

□『逆転のトライアングル』(2023年2月公開)この強烈なパルムドール受賞作は3部構成。メインキャストは男性モデルのカール。彼には”TRIANGLE OF SADNESS”(眉間の皺)がある。男性モデルの賃金は女性の三分の一で、外見以外には興味を持たれず、性的搾取の…

映画「ベネデッタ」 すっぽんぽんだ

□神を信じない深い信仰彼らは何を信じていたんだろう。キリストを見た聖女ベネデッタベネデッタと体を重ねる修道女神の沙汰も金次第の修道院長娼婦をよく知る教皇大使少なくともはっきりしていることは、彼らはみな神様だけは信じていなかったということだ。…

映画「世界は僕らに気づかない/Angry son」映画館で居心地悪いがなくなる日

□世界は僕らに気づかない/Angry Son(2023年1月より順次公開)大阪アジアン映画祭で"来るべき才能賞"を受賞。フィリピン人の母親レイナと暮らしている高校生・純悟(じゅんご)の日々を描く。フィリピン国籍、母子家庭、同性愛...そんな言葉からはタイトな結…